超進化した新型「GRヤリス」4月8日発売! 豊田章男氏が語る「誕生秘話」 「トヨタのスポーツ4WD」とは

そして…ついにデビューを迎えたGRヤリス。 豊田章男氏自ら振り返る!

 そして、2020年1月の東京オートサロンで世界初公開。実はこの時点で量産車の形になっているも課題は山積みで、予定通りに発売できるかどうか暗雲が立ち込める状況だったそうです。

 ただ、齋藤氏は「ここからの半年、モリゾウさんに毎日のように乗ってもらった事でクルマがガラッと変わりました」と。なぜ、それができたのでしょうか。

 この頃、新型コロナウイルス感染拡大により世界中がパニックに。移動規制や外出の自粛などが行なわれましたが、豊田氏は蒲郡市にある役員研修施設「KIZUNA」で、寝泊まりしながら誰にも会わずに執務を行なっていたそうです。

 GRヤリス開発チームは、これまで秒単位のスケジュールで世界を股にかけて行動していた毎日が一転しまった事を逆手に取り、「ちょっとでも時間が空いたら乗ってもらえるように」と、KIZUNAに試作車を配備しました。

 豊田氏はこの時の事を振り返ります。

「私は朝5時から仕事をしているので、だいたい14時-15時には終わります。

 その後の時間は空いている、更にKIZUNAの前には広い空地(ダート)がある。

 それなら試作車の走り込みができるぞと。それから毎日のように走りました。

 走ると壊れるので、状況を電話/動画などで連絡、クルマを直してもらって再び走らせるの繰り返しをしました」

GRヤリス開発を自ら行ってきたモリゾウこと豊田章男氏(画像は「GR FESTIVAL OKINAWA」にて)
GRヤリス開発を自ら行ってきたモリゾウこと豊田章男氏(画像は「GR FESTIVAL OKINAWA」にて)

 その結果はどうだったのでしょうか。齋藤氏は次のように振り返ります。

「実際に乗ってもらうと本当に壊れました。

『プロドライバーが乗ると壊われないのに、なぜ?』の繰り替えしでした。

 クルマはデータ/映像を自動で撮れるのようにしてあったので、それらを見ながら部品を確認、その場で直せない場合は本社に持ち替って検証しながらカイゼンを進めました。

 代表的なのはトランスファー冷却、シフトフィール改善、4WD制御、エンジンの冷却などがこのKIZUNAで鍛えられたと言っていいでしょう。

 その距離は2020年から2022年までの2年で1000km(KIZUNAのダートコースは1周1km弱なので、何と1000LAP)。

 その試作車を我々は『207号車』と呼んでいますが、2024年の東京オートサロンやラリー三河湾、ラリチャレ沖縄のデモランで走らせているモデルです」

 そして、2020年8月にラインオフ式を迎えました。通常であれば開発チームにとっては“ゴール”ですが、豊田氏の心の中はそうではありませんでした

「この時の私は『やったー、ラインオフだ~!!』と浮かれていましたが、モリゾウさんに『ちょっとおいで』と。

 褒められるかなと思ったら『今日がスタートだよ、今度のS耐24時間、壊すからね』と。正直、この時はその意味がよく解っていませんでした」

 2020年9月4日、GRヤリスは正式発売。その翌日となる9月5-6日に開催された富士24時間耐久レースにGRヤリスが参戦しました。

 その実力を示すにはいい機会ですが、豊田氏はチームメンバーに異例の指示を出しました。

「『壊してください』

 決勝前に私はチームメンバーに『壊せ』と言いました。その意味は、壊した所を強化して、ユーザーの皆さんの手に渡るときにしっかりしたものになるように、『この24時間をその舞台として捉えろ』と。

 変に守って走るのではなく、全開で走って壊れたものは改良していこうと。それを開発メンバーにリアルに解ってほしかった」

 また齋藤氏はこの時の事を、今でも鮮明に覚えていると言います。

「GRヤリスでのレース参戦、その時の私は『次はレースに出れる!』と調子に乗っていました。

 そして、心の中では『自信を持って開発してきたので、問題ない』と。しかし、実際は大違いで、次々と起こるトラブル。

 今までのトヨタが経験した事の無い出来事でした。正直に言うと、夜中はホテルに戻って仮眠しようと思っていましたが、そんな余裕など全くありませんでした。ただ、結果はデビューウインでした」

 だた、齋藤氏は表彰式の後のミーティングを見て、ガツーンと衝撃を受けたと言います。

「レース後に浮かれているのは私くらいで、チームのスタッフはすでに次のレースの話をし始めました。

 心の中では『色々不具合はあったけど、クルマは持ちこたえて勝てた。それでいいじゃない』と思っていましたが、チームはそう考えていません。

 要するに現状に満足せず、すぐに次に活かすと言う考え。つまりリアルな『もっといいクルマ』を目の当たりにしました。

 ここでモリゾウさんの『スタート』の意味が、本当に解った気がします」

 恐らく、今までのトヨタは壊さないようにつくるが正義でしたが、豊田氏はそこに疑問を持ち、「壊れなかったからOKではなく、壊さないと本当の限界は解らない」を開発チームにモータースポーツの現場でリアルに伝えたかったのでしょう。

 これも「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」の大事な考えの1つです。

 この時以降、GRヤリスは本当の意味での“壊しては直す”開発がスタートしたそうです。

 レースやラリー、ダ―トラ、ジムカーナを始めとする様々なモータースポーツシーンを活用して、極限の状態でクルマは鍛えられていきました。

「これまでは我々はモータースポーツやカスタマイズの世界はトヨタとしては領域外でしたが、モリゾウさんは『彼らもお客様の1人、彼らの困りごとをサポートするのも、君たちの役目だよ』と。

 確かに発売時に『チューニングやモータースポーツに存分活用してください』とアピールしながら、その裏では何もできていませんでした。

 そこに真摯に向き合う事こそが、モリゾウさんの語る『モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり』の近道なんだと」(齋藤氏)

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