新型「モデル2」どうなった!? テスラが目指すのは「自動車メーカー」脱却? イーロン・マスク氏が示した未来「マスタープラン3」とは
EVメーカーから「エネルギー」カンパニーへの転換
しかしその後、それまでは投資家の立場でテスラを見てきたマスク氏自らが経営に乗り出し、完全自社生産でのEVメーカーへの転身を図ります。
マスクCEO体制になってから、第一期オバマ政権が推進した「グリーンニューディール政策」によって、米エネルギー省による米国内での次世代車製造に関する低利子融資を受けています。
さらにメルセデス・ベンツ(当時のダイムラー)やトヨタなどとの技術提携を経て、EV開発から製造に向けた事業基盤を築いてきたのです。
続いて「マスタープラン2」が公表されたのは、マスタープラン第一弾から10年後の2016年です。
この時期は、テスラ初の自社製造施設であるカリフォルニア州フリーモント工場の稼働が軌道に乗り始め、4ドアクーペ「モデルS」やSUV「モデルX」、そして開発プロセスを大きく変えた小型セダン「モデル3」という多モデル化が見えてきました。
こうした社内での研究開発の体制変化についても、今回のインベスター・デーの中で担当者が”振り返り”として詳しく説明しています。
マスタープラン2では、太陽光パネルなど充電設備との関係強化や、CASE(通信によるコネクテッド、自動運転、シェアリングなどの新サービス、電動化)が自動車産業界で大きな話題となっており、そうした時流にテスラの事業の連動するイメージでした。
その後、大型トレーラー「Semi(セミ)」や、サイバートラック、そして2万5000ドル級エントリーモデル、通信による車載データ書き換えのOTAシステムの活用、ロボットタクシー事業、そして低コストのバッテリー製造技術など、段階的にモデルや新技術について情報を公開してきました。
そして、今回のマスタープラン3では、これまで情報公開してきた各種の技術、サービス、そして新工場の建設について、担当部門責任者らが個別に説明をしたものの、マスク氏としては「いまこそ、もっと大きな視点が重要な時期」という判断が会ったのだと思います。
なぜならば、2010年代まではまだまだ「特殊なクルマのひとつ」に過ぎなかったEVが、2020年代に入り「本格的に普及する見込みが出ていた」時期に転じたからです。
背景には、欧州連合による強力な政治主導によるEVシフトにかかる各種の規制、中国での国内市場向けと輸出向けとしてのEV産業強化、さらにアメリカでの対中政策をにらんでのIRA(インフレ抑制法)など、様々な規制強化の流れがあります。
こうした規制強化は、EV市場をけん引するテスラにとって追い風になる一方で、EVの差別化要因が減らすことにつながります。
自動車メーカー各社のEVシフトが急加速し、テスラの優位性を維持することが難しいとも考えられます。
だからこそテスラは今、モビリティカンパニーから「エネルギーシステム総括マネージメントカンパニー」への転換を図っているように感じます。
そうした事業の出口のひとつとして「EVなどのモビリティの事業にもフレキシブルに対応していく」といった話につながっていくと考えられます。
近年、自動車メーカーは、既存事業からモビリティ事業への転換に躍起になっている時期ですが、既存事業での雇用など「背負っているモノやこと」があまりにも大きく、段階的または部分的に変化するしかない、という状況にあると筆者は感じています。
一方、事業基盤がEVからスタートしたテスラとしては、今後の事業競争の舞台を、自動車メーカーとは別の場所に一気に移していこうとしているのではないでしょうか。
つまり「EVありき」ではなく、「エネルギーありき」という観点での視点です。
テスラのマスタープラン3は、テスラ社の将来事業計画に止まらず、自動車産業界全体の将来を考える上で、良きたたき台になるように思います。
Writer: 桃田健史
ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
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