新型「モデル2」どうなった!? テスラが目指すのは「自動車メーカー」脱却? イーロン・マスク氏が示した未来「マスタープラン3」とは

2023年3月1日、テスラのイーロン・マスクCEOは、投資家向けイベント「インベスター・デー」に登壇。新型車についての言及がほとんどなかった一方で、同社が目指す将来ビジョンを語り、話題を呼びました。

噂の量販型テスラ 新型「モデル2」の詳細については言及せず

 テスラが2023年3月1日に開催した投資家向けイベント「インベスター・デー」について、日本の含めた世界の国や地域のメディア、投資家、そしてユーザーから、賛否含め様々な意見が出てます。
 
 次世代モデルの発表も期待される中、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は具体的な車種計画には言及しませんでしたが、一方でカーボンフリーに向けたビジョンを語ったのです。

新興EVメーカーとして2010年代後半に急速な進展を遂げたテスラですが、世界各社の新型EVが追撃を始める中で、イーロン・マスクCEOは新たな道を示しました[写真はテスラの量販セダン「モデル3」]
新興EVメーカーとして2010年代後半に急速な進展を遂げたテスラですが、世界各社の新型EVが追撃を始める中で、イーロン・マスクCEOは新たな道を示しました[写真はテスラの量販セダン「モデル3」]

 まずは、イベントとしてのスタイルがちょっと変わっていました。

 場所は、カリフォルニア州のシリコンバレー地域から移転した、テキサス州オースティンにあるテスラの新社屋です。

 イベント全体の雰囲気としては、なんというのか、とても”まったり”した感じで、なんと4時間以上にも渡る長丁場でした。

 これまでテスラが実施してきた株主総会や新車に関する発表会とは異質だったと言えるでしょう。

 そんな、テスラとして初めての試みとなったインベスター・デーに対して、海外メディア、SNS、YouTuberの反応を見ると「近年登場すると予告してきた新車に関する具体的な情報がもっと欲しかった」という声が多い印象を受けます。

 この新車とは、「モデル3」よりさらに手頃な、新車価格2万5000米ドル(1ドル136円換算で340万円)のモデルのことです。巷では「モデル2」とも呼ばれることがあります。

 イーロン・マスクCEOは、コロナ禍になった2020年にこの新車を「3年後に販売する」と表明していたので、今回のインベスター・デーでは”ほぼ量産型”のプロトタイプ登場の期待が高まっていたところです。

 そのほか、ピックアップトラック「サイバートラック」を含めた、今後登場予定モデルの全体像については、図表で示すことにとどめました。

 テスラに限らず世界の自動車メーカーは近年、半導体不足によって新車製造に大きな遅れが生じています。

 テスラとしては現在かかえる量販モデル「モデル3」「モデルY」のバックオーダー分の製造をしっかりこなすことを最優先しており、モデル2(仮称)の具体的な内容に触れるタイミングではないと判断した、とも考えらえるでしょう。

 さて、今回のインベスター・デーで気になったのは、マスクCEOが、四半期ベースといった一般的な企業評価の基準ではなく「もっと先の未来を考えていきたい」という点を強調したことです。

 その中で、地球規模での持続可能な、化石燃料由来から完全に脱却した環境にやさしい世界実現に向けた発言が目立ちました。

 なぜ、テスラはこのタイミングで、そうした事を強く言い出しているのでしょう。

 背景にあるのは、テスラの成長の軌跡と、EV市場を取り巻く世界事情だと思います。ここでは特に前者について深堀りしてみたいと思います。

 まず、「テスラ成長の軌跡」について見ていきましょう。

 今回のインベスター・デーは、「マスタープラン3」の発表が基本となっています。

 このマスタープランとは、一般的な自動車メーカーで言えば、「〇〇ビジョン」または中期経営計画といった類のものです。

 一般的な〇〇ビジョンや中期経営計画は、株主や投資家、そして経済メディア向けという意味合いが強くなります。

 しかしテスラの場合、ユーザーがテスラ本社に対して直接的な関心を持っている人が少なくないため、マスタープランにはユーザー向けのメッセージという意味合いも多分に含まれるのではないでしょうか。

 その上で、これまでのマスタープランを振り返ってみると、2006年に公開された最初の「マスタープラン」は、テスラが企業としての実績を作るための初期的なステップでした。

 テスラ創業の具体的なきっかけは、創業者のひとりであるマーティン・エバーハード氏が、自身の夢であるEV量産を考えていた際、カリフォルニア州内のEVベンチャーが開発中だった、直径18mm×高さ65mmの円筒型小型リチウムイオン二次電池を大量に使う試験車両を目にし、「これを私が好きなロータス エリーゼに搭載してみたい」というシンプルな発想でした。

 筆者(桃田健史)は2000年代から2010年代にかけ、このEVベンチャー関係者にテスラとの関係について、テスラ創世記に関する詳しい話を直接聞いてきました。

 当時、EV専用部品の調達も難しく、テスラ関係者は当時の投資家の関係などから、台湾での産業用モーター開発会社と出会い、EV用モーターをゼロベースに開発していきます。

 またモーター制御についても、当初は台湾メーカーが開発を担当しています。こうした関係者らからも、筆者は台湾の現地で詳しい話を聞いています。

 こうして、テスラ最初の生産モデル「ロードスター」は2008年に量産されるのですが、実質的には、いわゆるEVコンバージョン(エンジン車にEVのパワートレインを載せ換えたモデル)の域を超えていませんでした。

 一部のユーザーには「珍しいクルマ」として認知されたものの、生産性や販売網の構築など様々な課題を抱えて、2000年代後半には企業としての存続が難しいのではないか、という報道が目立つようになりました。

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