「ラ フェラーリ」を超えた「SF90」 静かなる跳ね馬の実力とは
フェラーリの新たなフラッグシップモデルは、V12ではなく、まさかのV8エンジン、それもEV走行可能なプラグインハイブリッドでした。モータースポーツの技術を存分に活かした「SF90」は、ロードカー最速を謳う1台。そんなSF90に試乗して、フェラーリの新技術を体験してみました。
スクーデリア・フェラーリを名に持つロードカー
最近のフェラーリを見ると、必ずボディサイドに盾型の跳ね馬エンブレムを付けている。ボクはあれがあまり好きじゃない。誤解のないようにいっておくと、あのエンブレム(シールドという)そのものが嫌いなわけじゃない。むしろ大好きだ。大好きだからこそ、“フツウ”のフェラーリロードカーに堂々と付けてあるのを見るのが好きじゃないのだ。
あのシールドに見合うロードカーといえば、最近のモデルでいうと、「488ピスタ」や「812コンペティツィオーネ」ぐらいのもの。要するに本来は“選ばれし跳ね馬”=サーキットに何らかの縁があるモデル、に贈られたエンブレムなのだから。
シールドとは本来、フェラーリのレーシングチームが使用するエンブレムだった。ロードカー用の四角いバッヂとは存在理由がまったく違う。もちろんシールドにも跳ね馬が描かれているのだけれど、その下の二文字、SとFが重要だ。これはスクーデリア・フェラーリのイニシャルで、スクーデリアとは“馬の厩舎”のこと。転じてレーシングチームを指す。
そもそもロードカーに気軽に使っていいようなエンブレムではなかった。ところが1980年代に特別なロードカーとしてコンペティションベースの「GTO」(288)がシールドを貼って登場すると、一気に人気アイテムとなった。正式にオプション採用される以前はシールドのステッカーを貼ったり、わざわざボディを板金加工してくぼみを作り高価な七宝焼を取り付けたりしたものだった。純正オプションとなった「F355」以降は瞬く間に必須アイテムとなり、今ではほとんどスタンダード仕様のようになった。
●シールドを付けるに値する出自
エンツォがもし生きていたなら、特別なモデル(「288GTO」や「F40」の系譜に連なるスペチアーレなど)以外には絶対に使わせなかったと思うのだが、どうだろう。
もちろん、本稿の主題である「SF90ストラダーレ」にはお似合いだ。何せ名前からしてSFなのだから。
フェラーリにとって、とても重い意味を持つSFの二文字。それゆえSF90というネーミングをマラネッロがロードカー用として使う背景にあった意気込みは相当に強いものだったと容易に想像できる。数字の90はスクーデリア・フェラーリ設立90周年を記念したものだった。
SF90ストラダーレが正式のデビューした2019年(ちなみに同年にスパイダーもデビュー)から遡ること90年前の1929年。アルファ ロメオのレーシングドライバーであり、モデナでアルファ ロメオディーラーを経営する男が、レーシングチームを立ち上げたのだ。エンツォ・フェラーリのスクーデリアフェラーリ誕生だ。
もっともその規模は、今に喩えるとフェラーリ正規ディーラーによる顧客のワンメイクレース参戦支援のようなレベルだった。第二次世界大戦後にエンツォがオリジナルスポーツカーの製作に乗り出し、その名を世界へと広めるための場所として始まったばかりのF1選手権を活用し始めると、フェラーリは一気に名をあげる。その勢いをかってアメリカで再成功したフェラーリは、世界最高のスポーツカーブランド&レーシングチームへと成長し、今ではSFのエンブレムはF1界になくてはならない存在になった。
それゆえSF90という名前を持つロードカーがいかに重要なモデルであるかは容易に想像できよう。しかもそれは、いち早く電動コンポーネンツを採り入れたF1マシンに倣って、フェラーリのシリーズモデルとしては初めてプラグインハイブリッドシステム(PHEV)を採り入れた(跳ね馬のハイブリッドモデルとしては限定生産の「ラ フェラーリ」に続く第二弾だ)。
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