「ミウラ」のオーナーは19歳女子大生だった! 2億円オーバーで落札された「P400S」の数奇な運命とは

ファーストオーナーは19歳の女子大生だった「ミウラ」

 今回の「Montley」オークションに出品されたミウラP400Sは、歴代オーナーの人数が非常に少なく、現代にいたるヒストリーが仔細にわたって残されていた。

新車として生産された際のボディカラーはホワイト/グレーであった。このままにするかペイントするかは4人目のオーナーの思うままだ(C)2021 Courtesy of RM Sotheby's
新車として生産された際のボディカラーはホワイト/グレーであった。このままにするかペイントするかは4人目のオーナーの思うままだ(C)2021 Courtesy of RM Sotheby's

●40年以上にわたって休眠し、タイムカプセルとなったミウラP400S

 米モータートレンド誌のWEBマガジン「AUTOMOBILE」が2020年7月に発表したレポートによると、このP400Sは1970年代初頭からカリフォルニア大学バークレー校に在校していた、当時19歳のイラン人女子学生がファーストオーナーとのこと。

 イラン革命以前に同国の有力者であった彼女の両親は、サンタ・アガタ・ボロネーゼのランボルギーニ本社に赴いて、アメリカ仕様としてこの#4761をオーダーし、カリフォルニアに住む愛娘のもとにデリバリーさせたそうだ。

 この贅沢すぎるプレゼントは、おそらくはイランから留学資金を送金する代わりに、このミウラP400Sが西海岸に到着したらすぐに転売し、現金化することが目的だったと目されている。

 ところが、肝心の女子学生本人がミウラを気に入ってしまったのか、自身の愛車として維持・運転することを決意してしまったことで、事態は計画から大きく外れてしまう。彼女は自身のミウラへの想いを巧みに秘匿しながら、両親から手紙で申しつけられた計画を遂行するふりをするために、このクルマの販売広告も出していたとのことである。

 はるか遠い母国イランに住んでいた両親は、愛娘の策略に気づいていたのか否かは不明ながら、とりたたて行動に出ることはなかったようだ。そののちも彼女が2年間にわたってミウラに乗り続けていたことは、今回のオークション出品時に添付されたメンテナンスの請求書でも明らかになっている。

 しかし、このミウラと女子学生の蜜月は、彼女が自損事故を起こしてしまったことで、突然の終わりを告げる。損傷は右ヘッドライト周辺に局在していたが、ミウラのデザインの複雑さとクラムシェル型のアルミニウムフードの複雑な形状とフィット感は、当時の地元のボディ改修業者にとっては、あまりにも大きな課題となってしまったという。

 その結果、彼女はミウラとの生活を断念。それまで小規模の修理でかかわりのあった、カリフォルニア州サン・マテオの自動車ボディショップ経営者に譲ることとした。

 2人目のオーナーとなったボディショップ工場主は、自身の職分を生かして#4761を路上に戻せるように修理するつもりで、1977年にはランボルギーニ本社から補修用の新品パーツも数多く購入していたが、やはりプロジェクトはなかなか進行することなく、実に40年以上にもわたって、サン・マテオのガレージの片隅にて長い眠りにつくことになる。

 事態が動いたのは、2019年。今回のオークション出品者である現オーナーがこのミウラを手に入れ、再び走行可能な状態をとり戻すべく、ランボルギーニのスペシャリストによるチームを結成したのだ。

 40余年の間に、アメリカにおけるランボルギーニのボディ補修のノウハウは大幅に進化していたのか、カリフォルニア州コスタ・メサに拠点を置く「ベックマン・メタル・ワークス」社が約8か月をかけて、損傷したままだったノーズをリペア。幸いなことに、前オーナーが1977年に補修パーツを入手したのちも、メーカーの製造ナンバーつきのオリジナルパーツは残されており、それらをうまく使い分けて投入したとのことである。

 一方メカニカルパートでは、ミウラの専門家として知られるメカニック、ジェフ・ステファン氏に依頼。必要に応じて各パートを修理または部品の交換をおこない、40年ぶりに路上を安全に走ることができるコンディションを取り戻した。

 そしてこのミウラP400Sにおける最大の特徴である、無塗装のボディワークについては「モーガン・イメージズ」のクリス・モーガン氏が担当。彼は最終的にベアメタル状態で彫刻のようなミウラの姿を披露するために、ボディに残されていた塗料を剥ぎ取る作業を委託された。

 #4761が新車として生産された際のボディカラーはホワイト/グレーで、ブルーのインテリアが組み合わされていたとのことだが、オリジナルに戻すのか、強烈なインパクトのベアメタルをこのまま残すのか、あるいはまったく別のカラーリングとするかは、今回のオークションで落札した4人目のオーナーの思うまま、ということだった。

 このきわめてユニークな1971年型ランボルギーニ・ミウラP400Sに、RMサザビーズ北米本社が設定したエスティメートは180万−220万ドル。そして8月14日に行われた競売では順調にビッドが進んだようで、最終的には209万5000ドル、邦貨換算すれば約2億3085万円で落札されるに至ったのだ。

 3世代のミウラでも、もっともマーケット評価の高いSVが2億5千万円を超える価格で取り引きされることが当たり前になっている一方で、P400やP400Sはそれより1億円以上も安価となる事例が多い現在の市況において、今回の#4761の落札価格はP400Sとしてはかなり高評価とみて間違いあるまい。

 これは来歴が明確であることや、現状の走行距離が1万6000マイル(約2万5000km)足らずの「タイムカプセル」であることが、大きく作用した結果と思われるのである。

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