カイゼンされた「水素カローラ」で2回目の耐久レース参戦! トヨタが見せた底力とは
2021年5月に続き、水素エンジンを搭載したトヨタ「カローラ」が同年7月にオートポリスでおこなわれた耐久レースに参戦しました。約2か月間で前回の課題点をカイゼンした「水素カローラ」ですが、2回目となる耐久レースに密着しました。
水素の地産地消にもこだわるトヨタの挑戦に密着
2021年5月22日から23日にかけて富士スピードウェイ(静岡県)でおこなわれた「富士24時間耐久」では水素エンジンを搭載した「カローラ」(以下、水素カローラ)が見事に走り切りました。
筆者(山本シンヤ)はこのレースに密着取材をおこなっていましたが、後日、同レースに参戦していたドライバーである、筆者の友人と話をする機会がありました。
彼はスーパー耐久に参戦しているドライバーで、富士24時間耐久レースでは水素カローラとタイム的に近いST5クラスでトップ争いをしているときに、コース上で何度か遭遇したといいます。
「山本さん、水素エンジンでの挑戦は凄いと思うし、社長の言葉を借りると『意志ある行動』だと思ったけど、肝心のクルマは……ね。直線はそこそこ速いけど、ブレーキングやコーナーはフラフラで大変そうだったよ」
この水素カローラ、2020年11月に豊田章男社長が「レースに出る」と宣言してから異例のハイペースで製作された車両です。
いくつかトラブルがあったとはいえ、初挑戦で24時間を走り切ったことから「水素エンジンは来年(2022年)くらいに出るらしい」と勘違いしている人もいますが、それは大きな間違いです。
トヨタが細々と水素エンジンの研究をおこなってきたとはいえ、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンのように「手の内化」できているかというと未知な部分ばかりです。まだまだ課題は山積みです。
そんな水素カローラは2021年7月31日から8月1日に2回目の挑戦をおこないました。そのステージは大分県のオートポリスで、5時間の耐久レースとなります。
24時間の戦いから2か月、水素カローラはどのような進化を遂げたのでしょうか。
豊田社長は水素社会の実現は個々の技術の進化に加えて、「作る・運ぶ・使う」というすべてのプロセスを繋げることが重要と語っています。
水素カローラの挑戦は、水素を「使う」ための選択肢を広げるための取り組みのひとつですが、今回はそれに加えて水素を「作る」ための選択肢を広げるということに挑戦しています。
じつは、九州は再生可能エネルギー比率が高いうえに水素の研究が盛んな地域です。そこで水素カローラの燃料として、トヨタ自動車九州から「太陽光発電」による電気で製造された水素、大林組から「地熱発電」による電気で製造した水素が供給されます。ズバリ、水素の地産地消です。
ただ、今回は使う量に対して50%の供給量(トヨタ自動車九州:約20%、大林組:約30%)ということで、残りの50%は福島県波江町のFH2Rで製造される水素も使っているそうです。
トヨタ自動車九州が「工場のカーボンニュートラル化の一環」というのは何となく理解できるのですが、総合建設会社の大林組がなぜ水素なのか。そんな疑問に対して大林組の蓮輪賢治社長はこう語っています。
「大林組はこれまでさまざまな再生可能エネルギーの利用を拡大する取り組みをおこなっています。そのひとつとして地熱発電をやってみようと思ったのですが、一番の課題は『発電した電気をどう運ぶのか?』ということでした。
普通なら送電線を用いるのですが、発電可能な場所が山間部のため送電網が不十分なことや、系統連系の脆弱さもありキャリアとして配ることができません。『それなら水素に変えてやってみよう』ということでスタートしたのが、『地熱発電を活用したグリーン水素を複数の需要先に供給するまでの一連のプロセスの実証』です。
これまでトヨタ自動車九州の協力で水素ステーションなどに供給していましたが、今回トヨタ自動車からのお声掛けで水素エンジンの燃料として使ってもらうことになりました。
我々にとっては光栄なことでモチベーションも上がっていますので、これまで以上に取り組んでいきたいと考えています」
地熱発電に関して、日本はアメリカ、インドネシアに次いで世界3位のポテンシャルエネルギーを持っており、以前から注目されていたものの、広く定着することがありませんでした。
その理由は、新規参入を拒む電力業界の体質、原子力発電/火力発電に対して国の開発支援が消極的、適地のほとんどが国立・国定公園内で建設が困難など、“見えない力”も大きいと聞きます。
その一方で、空き地や斜面にズラッと並ぶ太陽光パネルを目にする機会が増えています。CO2を吸収する森林をわざわざ切り倒して設置し、それが原因で起きる土砂崩れ、さらに太陽光パネルの大半が中国の石炭火力発電所のエネルギーを用いて生産されている事実もありますが、何事も「海外がそうだから」と右に習えて進めるのではなく、その国にあったやり方を選ぶことが大事だと考えます。
それは奇しくも自動車業界における「EV論争」と良く似ています。まだハッキリとした正解が見えない時期に手段をひとつに絞り、ほかのやり方を封じてしまう考え方には賛成できません。
そもそも「敵は炭素で、内燃機関ではない」ということを忘れてはいけません。さらにいうと、現時点ではEV、FCV、水素エンジンはどれも完璧な物はなく、進化の途中にあります。
だからこそ、選択肢を狭めるのではなく広げることが進化に繋がると思っています。
今回、大分県九重町にある大林組の「地熱発電およびグリーン水素製造実証プラント」の見学をしましたが、「本当にこんな場所に?」とポツンと一軒家のような場所に施設があります。
ここでは地熱の蒸気でフロンを沸騰させタービンを回す「バイナリー発電」によって作られた電気を用いて水を電気分解し水素を生成しています。
なぜ、電気のまま使わず水素にするのでしょうか。
そもそも電気は貯めておくことができないエネルギーです。蓄電池(バッテリー)は化学反応を使って電子のやり取りをおこなうことで、電気エネルギーを化学エネルギーに変えて貯めています。
必要なときに電気に変換して使うという意味では、原理は違いますが、蓄電池も水素も同じ。さらに電気は送電がなければ移動させることはできませんが、水素ならば簡単に移動が可能です。
とくに地熱発電は山間部に多いことから配電の問題は切実であり、水素のほうがよりメリットがあります。
意外だったのは、厳重に作られた配管・タンクを採用するクルマに対してプラントの配管は簡易的だったことです。
多くの人は「水素は爆発しやすく危険」というイメージを持っているでしょう。もちろん着火性が高いのは事実ですが、拡散も速いのです。
そのため、仮にボンベから漏れてもすぐに薄まるので、想像よりも扱いはシビアではありません。
しかし、クルマに搭載する際には衝突時の安全性、長く使ったときの耐久性などが求められるので、より厳重な設計になっているのです。
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