装備充実のトヨタ新型「アクア」は「ヤリス」よりも割安!? トヨタが仕掛ける小型車戦略とは

なぜ新型アクアの月販目標台数はヤリスよりも多い?

 このような価格設定にした背景には、価格競争力を強化する狙いがあります。割安な最上級グレードのZを中心に、新型アクアの売れ行きを伸ばしたいというわけです。

 新型アクアのライバルになる上級指向のコンパクトハイブリッドには、日差「ノート オーラG」(261万300円)やホンダ「フィット e:HEV リュクス」(242万6600円)があります。アクア Z(2WD)の装備と240万円という価格であれば十分に対抗できるでしょう。

トヨタ新型「アクア」
トヨタ新型「アクア」

 新型アクアの月販目標台数は9800台です。ヤリスはハイブリッド車とガソリン車を両方用意して7800台であることを考えると、新型アクアはハイブリッド車のみの設定でありながら月販目標が多く設定されています。

 トヨタ車では、ヤリスや「ヤリスクロス」、「ルーミー」といったコンパクトな車種が販売ランキングの上位に入っており販売が順調ですが、なぜ新型アクアを大量に販売する必要があるのでしょうか。

 新型アクアがバイポーラ型ニッケル水素電池を採用したり、Zの価格をあえて割安にしたりするのも、1か月に1万台近くを売るための戦略なのです。

 その理由として、車種数の減少があります。最近トヨタは「マークX」「プレミオ/アリオン」「ポルテ/スペイド」「プリウスα」などを廃止しました。

 そのほかにも「アルファード」が好調に売れる一方で姉妹車の「ヴェルファイア」は低迷し、「プリウス」「クラウン」「C-HR」なども伸び悩んでいます。

 2010年にトヨタは国内で153万台の新車を販売しましたが、2020年は145万台です。コロナ禍の影響があったとはいえ、10年前と比べて5、6%減りました。

 しかも新車市場に占める軽自動車の比率は、2010年は35%でしたが、2020年は37%に上昇。2021年1月から6月は38%に増えており、安全装備や運転支援機能の充実でクルマの価格が上がる一方で所得は伸び悩むため、軽自動車への乗り替えが進んでいます。

 そうなると小型/普通車が中心のトヨタは、軽自動車に対抗できるコンパクトカーを強化する必要があります。

 厳しい2030年度燃費基準も視野に入れると、ハイブリッド専用車の新型アクアに力を入れて、国内販売の主力に据えたいわけです。

 販売店では「2021年7月下旬の契約で、新型アクアの納期は約2か月に収まります。ヤリスクロスは5か月以上で、納車されるのも年末から年明けですが、新型アクアの納期は通常通りです」といいます。

 新型アクアの割安な価格設定と周到な生産体制は、国内市場に向けたトヨタの販売戦略を反映させているのでしょう。

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Writer: 渡辺陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。

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