マツダとミズノがドライビングシューズを共同開発!? 異例のコラボはなぜ実現した?
異業種のコラボはどんな経緯で実現した?
今回のケースはクルマ業界として異例のコラボですが、一体どのような背景から生まれたのでしょうか。
マツダサイドのドライビングシューズ開発を取りまとめた、車両開発部の梅津大輔(うめつだいすけ)氏によると、最初のきっかけは2015年にマツダが始めた異業種間の技術交流で、両社のエンジニアのスキルアップが目的でした。
それはシューズに特化したことではなく、ミズノはゴルフクラブやバットなどを含めてさまざまな商品での知見があり、そのうえで素材領域についてマツダとミズノそれぞれの各部署で個別の技術交流が進みました。
現在でも基礎研究分野で両社の交流はあるのですが、そのなかで、サスペンションや車両のダイナミクス(運動性能)を研究開発する車両開発部と、ミズノのフットウエア開発部門で「(考え方として)非常に近いモノを感じた」といいます。
「非常に近いモノ」とは、「人中心」のものづくりです。
マツダには「ロードスター」に代表される「人馬一体」という考え方があり、またミズノには「人の動きを研究し、人と用具の調和を追求する」との開発思想があります。
両部門での技術交流は2017年末から始まり、ドライビングシューズという商品の開発へと具体的な話が進んでいきました。
そのなかで、マツダとミズノそれぞれが普段おこなっている開発の違いに直面した、といいます。
マツダの場合、「魂動デザイン」による美しいシューズを目指すため、デザイン本部のクラフトマンシップの匠がシューズのクレイモデルを作成しました。
そこからミズノのパタンナーの匠が生地の組合せによって機能を作り上げていったのですが、その工程がマツダにとっては理解が難しかったというのです。
こうした経験が今後、クルマのインテリアでの革の使い方や伸縮素材の布の開発で応用できると考えています。
一方、ミズノにとっての驚きは、「人中心の設計」を支える「人中心の評価」だといいます。
実際にクルマを走行させた際、テスターからの細かいフィードバックにあります。そのなかで、言語化したり指標化することで、機械では感じ取れない細かな違いを的確にフィードバックし、それにより設計の精度が高まることに気付いたというのです。
また、ミズノにとってはシューズにかかる力が「とても小さい」ことに対する開発で苦労したといいます。
たとえば陸上短距離の場合、シューズにかかる力は1500Nから2000N(150kgから200kg)、走り幅飛びでは5000N(500kg)、さらにやり投げでは8000N(800kg)にも達します。
一方、ドライビングシューズでは30N(3kg)という小さな数値です。
また、各種スポーツではシューズの前部に強い力がかかりますが、ドライビングシューズでは踵部分の力が重要となる点も大きな違いです。
さらに、走行中の横Gへの対応も、ミズノの開発者たちにとってはシューズ開発における新たなる挑戦だったといいます。
こうしたマツダとミズノそれぞれの知見と気付きをもとに、新型コロナ禍ではオンライン会議を主体としながらも、テストコースなどで実走もおこないました。
貴重な実走時間を有効活用するため、テストコースにはデザイナーとパタンナーも入り、テスターからのフィードバックを聞き、また計測機械によるデータを見ながらその場で作業をするアジャイルな開発手法を取り入れたといいます。
異業種コラボによって生まれた、理想的なドライビングシューズ。
その履き心地、そして使い心地とはいかなるものか、完成品を手に取る時がいまからとても楽しみです。
Writer: 桃田健史
ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
近著に「クルマをディーラーで買わなくなる日」(洋泉社)。
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