底値? いま手に入れたいボンドカーを過激にしたジャジャ馬BMW「Z3Mロードスター」とは

新車で気軽に手に入れることができるボンドカーとして、日本でも人気が高かったBMW 「Z3」の「M」モデルである「Z3Mロードスター」は、コレクターズアイテムとしても注目の1台だ。

価格が高騰する前の先物物件「Z3Mロードスター」

 かつてリアルタイムで現役時代を体験し、それ以後も長らくユーズドカーとしてマーケットでの行方を見守ってきたクルマが、今や「ヤングタイマー・クラシック」の領域に足を踏み入れ、これまでの相場観を覆すような価格で取り引きされる様子に驚かされてしまう。

 一定の年齢を重ねたエンスージアストにとって、そんな経験はよくあることと思われる。そしてBMW「Z3Mロードスター」も、きっと今後、同じような道筋をたどることになると思われる1台である。

 今回は英国シルバーストーン・オークション社の対面型およびオンライン併催の大規模オークション「THE MAY SALE 2021 – CLASSIC CARS AND CLASSIC MOTORCYCLES」に出品された、1台のZ3Mロードスターを俎上に載せ、「レビュー」しよう。

●2000 BMW「Z3M ロードスター」

新車当時の車両価格はおよそ800万円と、E46「M3」とほぼ同じくらいだったBMW「Z3Mロードスター」(C)Silverstone Auctions Limited 2021
新車当時の車両価格はおよそ800万円と、E46「M3」とほぼ同じくらいだったBMW「Z3Mロードスター」(C)Silverstone Auctions Limited 2021

 BMWのE36系「3シリーズ・コンパクト」のプラットフォームに、2シーターのオープンボディを組み合わせた「Z3」は、BMWが生産した最初の近代的な一般向けの量産ロードスターであるとともに、BMWが初めてアメリカ合衆国に設けた生産拠点、サウスカロライナ州スパータンバーグ工場でアセンブルされる量産車第1号であった。

 ピアース・ブロスナンが初めてジェームズ・ボンドに扮した、映画『007ゴールデンアイ(1995年公開)』の劇中にてデビューしたのち、1996年モデルとしてリリースされた。

 この作品は興行収入で1995年の第1位となったものの、「ボンドカー」としてのZ3の登場は、少々インパクトに欠けるとも評された。しかし、Z3の潜在的購買層へのアピールは充分なものだったようで、デビュー記念のファーストエディションは、正式発売を待たずして売り切れてしまったという。

 また、デビュー当時こそZ3のデザインはいささか物議をかもし、マーケットによってはアヴァンギャルドなデザインに対する心の準備ができていなかったようだが、誕生から四半世紀を経た現在では、この個性あふれるスタイリングはある種の魅力として受容されている。

 そんなBMW Z3の個性と資質をさらに突き詰めたのが、今回の主役である「Z3 Mロードスター」である。1999年のデビュー当時には、単に「Mロードスター」と命名されていたモデルである。

 スタンダードのZ3との最大の違いは、「BMW M」謹製のパワーユニットを積んでいたことである。

 長いノーズの下に、2代目M3(E36後期型)に搭載されていた、3.2リッター直列6気筒DOHC24バルブ、最高出力321ps/7400rpm、最大トルク350Nm/3250rpmを発生する「S50B32」型を詰め込んでしまったZ3Mロードスターは、0-60mph(約97km/h)加速タイム5.2秒、最高速度155mph(約250km/h)という、正真正銘のホットロッドとなったのだ。

 ところが、Z3が系ベースとするE36系3シリーズ・コンパクトのシャシは、実はさらに時代をさかのぼったE30系3シリーズに由来する旧式なものであった。特にリアサスペンションはE36以降のマルチリンクではなく、BMW伝統のセミ・トレーシングアームだった。

 そこでBMW「M」化を図るためにサスペンションレートを強化するとともに、LSDの標準装備化やトレッドの拡大、ブレーキの増強など大幅なシャシ改良が施されてはいたものの、限界領域の特性はかなりのじゃじゃ馬だった。それでも「腕に覚えのある」ドライバーにとっては、獰猛さを隠そうともしないキャラクターやダイレクトなハンドリングは、むしろ魅力的なものと受け入れられていた。

【画像】BMWが作ったジャジャ馬「Z3Mロードスター」とは(24枚)

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