長距離ドライブで判明! ロールス・ロイス「カリナン」はショーファードリブンSUVだった
プロレーサー、テストライダー・ドライバーの丸山浩氏によるオーナー目線のインプレッション。今回のテストカーは、ロールス・ロイス「カリナン」だ。
ショーファードリブンSUVという新ジャンル
600psを発生する6.75リッターV型12気筒エンジン。3295mmのロングホイールベース。そして2750kgのヘビーウェイト。これらすべては、快適な乗り心地のためにある。
ロールス・ロイスとして初のSUV「カリナン」。今回は上位バージョンの「ブラックバッジ」に試乗し、規格外のスペックはSUVにおいてもロールス・ロイスらしさを貫くために不可欠だということが確認できた。
●もはやモーターでもよいのかも
エンジンはいうまでもなく速く、素晴らしい加速を見せてくれる。だが、極めて上質で、エンジンの回転上昇はほとんど感じられないし、猛々しさもない。
便宜上、ここでは「加速」という言葉を使ったが、一般的な高出力エンジン搭載車のような派手なフィーリングとはかなり異なる。大型旅客機が上昇しながらスピードを乗せていくような感覚だ。
もちろん静粛でもある。唸りを上げるようなこともなく、わずかにV12らしい鼓動感が残されてはいるが、振動が極端に抑えられ、音もほとんど聞こえないとくれば、普通のエンジンとは一線を画している。ここまでくると、もはや電気モーターでいいのではないかと思う。
モータースポーツを愛する私としてはエンジンの味わいを残してほしいと願うが、ロールス・ロイスのように無振動、無音を追求するなら、モーターのメリットの方が大きい。
低回転域からの力強い加速、そして静粛性において、モーターはエンジンを超えている。あとは甲高いモーター特有の音を解消するだけだ。
3295mmのロングホイールベースは、2.7トンを超える車重と相まって、低速域から高速域までどんな速度域でも同レベルの高い安定感を発揮する。
速度によって安定感が変動しないというゆとりはすごい。ジオメトリーなどで無理に進行方向を安定させているのではなく、長さと重さで物理的に安定しているからだ。ちょっとした操作では微動だにしないようなどっしり感は、高速道路を長距離走ってもドライバーに疲れを感じさせない。
●フライングカーペットの異名は伊達じゃない!
乗り心地も極めて良好だ。高速道路は速度が高いので、路面の凸凹や継ぎ目を越える際の衝撃も大きい。だがカリナンは、これまたホイールベースの長さと車重、さらにはエアサスのセッティングやシートのクッション性の高さなどにより、滑らかにいなしてくれる。
クルマというより、まるで大型客船のように大らかな揺れで衝撃を吸収してしまうのだ。
面白いのはパワーステアリングだ。普通はモーターの唸りなど何らかの作動を感じさせるパワステだが、カリナンはまったくパワステの存在を感じさせず、軽々とステアリングが回る。
ロールス・ロイスは乗り心地のよさから「空飛ぶ絨毯」と形容されるが、パワステに関してもまるで地上から浮いているような独特なフィーリングだ。これは主に街中での疲れを軽減する効果があった。
このパワステ特性もあって、街中では意外にもキビキビと走らせることができる。だが、このクルマはやはりショーファードリブンである。主役は後部座席だ。
あまり小刻みにステアリング操作し、そのことを後部座席の人が感じてしまうような走りは似合わない。アクセルを踏んでもドンと出ずにわずかな間があるのも、後部座席の主役への配慮。鷹揚に走らせたい。
●取り回しには多少の困難あり
また、いくらパワステが軽やかでも、さすがに取り回し良好とはいいがたい。3295mmのホイールベースが災いし、日本の一般的な駐車スペースへの車庫入れは多少の苦労がある。
1発で収めることは難しく、多少広めの枠内でも1、2回の切り返しが必要になる。庶民的な例えだが、カリナンのサイズは「ハイエース スーパーロング・ハイルーフ」とほぼ同一だ。しかしホイールベースはハイエースより長く、車幅も広い。これが駐車を難しくしている。
さて、このカリナン、私たちのようなモータースポーツ好きが仮に手に入れたとして、どのような使い方ができるだろうか?
今回私は自らカリナンを運転し、モトクロスやレーシングカートに出向いた。ロールス・ロイスとしては運転が楽しめる部類なので、まず道中、ステアリングを握りたい気分になる。そしていうまでもなく行きも帰りも極めて快適で楽なので、モータースポーツイベントを思い切り楽しめた。
率直にいえば、現時点の私はもう少し目的地までの往復の運転も楽しみたい。だがあと10年経ったら……と思うと、カリナンもリアルな選択肢に入ってくるだろう。もちろん、予算がリアルかどうかは別の話だが……。
ただ、10年後は先に書いたように、電気モーターになっているはず。その時ロールス・ロイスがどのような乗り味になっているか、興味は尽きない。
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