クルマの先端にあるマスコットはなぜ必要? 高級車のシンボルのヒミツを探る

現代では格納可能なマスコットへ進化

 筆者自身がロールス・ロイス/ベントレーの世界に長く身を置いてきたので、まずは両ブランドのエピソード先行となってしまったが、フードマスコットについてはほかのブランドでも数多くの傑作が見られる。

初代W202系Cクラスは、エンブレムを基部とする「スリーポインテッドスター」
初代W202系Cクラスは、エンブレムを基部とする「スリーポインテッドスター」

 ロールス・ロイスと並んで有名なマスコットといえば、メルセデス・ベンツの「スリーポインテッド・スター」であろう。このシンプルきわまるマスコットは、ベンツ社との合併(1926年)以前の「ダイムラー」時代からラジエーターグリルを飾り、現在では事実上の「Sクラス」専用となってしまったものの、100年以上の歴史を誇っている。

 また、第二次大戦前にはR−Rのライバルだった高級車専業メーカー、スペイン発祥でのちにフランスに拠点を移したイスパノ・スイザには「シゴーニュ・ヴォラント(飛び立つコウノトリ)」が用意され、ロールス・ロイスのスピリット・オブ・エクスタシーと双璧を成す、アイコン的アート作品と称された。

 そして、ブガッティは「T41ロワイヤル」や「T50」などの超高級プレステージモデル用として、開祖エットレ・ブガッティの弟で彫刻家のレンブラント・ブガッティが原型を制作した、立ち上がる巨象をラジエーター上に設置していた。

●世界各国で、様々なデザインとストーリーのマスコットが百花繚乱

ルネ・ラリックの女神像「クリシス」
ルネ・ラリックの女神像「クリシス」

 一方こちらはメーカー純正指定というわけではないのだが、イスパノ・スイザやブガッティと同じくフランスにて、第二次世界大戦の前後に活躍した高級車ブランド、ドラージュやタルボ・ラーゴには、クリスタルガラス工芸の大家ルネ・ラリックの作品、例えば勝利の女神の頭部を象った「ヴィクトワール」や「ル・コック(雄鶏)」などと名づけられた素晴らしいクリスタルアートが、オーナーの希望によって取り付けられていた。

 これらのラリック作品の芸術価値は非常に高く評価され、のちのラリック社が自らクリスタルガラス製のレプリカを製作・販売し、いまなおアンティークや美術品として高値で取り引きされているようだ。

 しかし、フードマスコットをもっとも重用したのは、やはり英国だったといえるだろう。オースティンやモーリスなどの大衆車から、それぞれ独自のデザインのマスコットを設置。また、ジャガーは中級車だった時代から、自動車画家フレデリック・ゴードン・クロスビーがデザインした、躍動感のあるマスコットをサルーンモデルに設定。「リーピング・ジャガー」あるいは「リーピング・キャット」の愛称で知られている。

 その傍ら、大西洋を挟んだアメリカでは、キャデラックの「フライングレディ(あるいはフライングゴッデス)」が代表格。痩身のグレイハウンド犬を象った、リンカーンのマスコットも有名だった。

 そしてわが国、日本でも第二次大戦前のダットサンには「脱兎のごとく」という言葉に車名を掛け合わせた、可愛いウサギのマスコットが装着されていた。また第二次大戦後も、トヨタ・クラウンや日産セドリックなどの高級車には、長らくフードマスコットが飾られていたのだ。

 さらに1920−40年代には、自動車メーカーの純正ではなく汎用のフードマスコットのみを製作・販売する業者も、主に欧米では数多く存在していたようだ。

 これらのマスコットのデザインは、ロールス・ロイスやキャデラックの女神像を意識したものから、動物像など多岐にわたる。そのなかには、実はアメリカ発祥である「ビリケンさん(Billiken)」。果ては、ドイツでナチス党が台頭するまでは「スワスティカ(Swastika:卍)」なども象ったものなど、ちょっと自由過ぎるデザインのものも存在。当時はメーカー純正のマスコットから取り換えて、個性を主張するマニアもいたようで、カーアクセサリーの代表的なジャンルとして一時代を築いていた。

 ところが1980年代以降、自動車のエアロダイナミクスを追求する動きが全世界的なものとなると、スリークなスラントノーズに似合わなくなっていたフードマスコットは行き場を失ってゆく。さらに対歩行者安全対策の見地から、突起物であるマスコットは危険と見なされてしまう。

 そこで、脚部にスプリングを仕込んだ可倒式のマスコットも開発されるが、それでも残ったのはメルセデス・ベンツやロールス・ロイスなど、一握りの高級プレステージカーのみとなってしまった。

 しかし現在では、ドライバーの任意やパーキング時にはグリル/エンジンフードに収納できるマスコットが、現行すべてのロールス・ロイスおよびベントレー新型フライングスパーにも採用。旧き良き伝統を、巧みな手法で現代に遺しているのである。

【画像】女神からゾウ、コウノトリまで、百花繚乱マスコット(30枚)

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