「Sクラス」にワゴンがあった! 謎の「560TELエステート」驚きの落札価格とは?

新型が発表されたばかりのメルセデス・ベンツ「Sクラス」であるが、これまでSクラスにはワゴンはラインナップしていない。しかし、いつの世にも好事家がいて、ワゴン化されたSクラスが存在する。そこで、最新オークションで思わぬ高値で落札された1台を紹介する。

欧州各国のコーチビルダーがこぞって参入したSクラス・ワゴンのカスタム

 アメリカ発祥と推測される「エステートワゴン」ないしは「ステーションワゴン」は、1960年代にはヨーロッパにも波及。メルセデス・ベンツも当時「コンパクト・メルセデス」と呼ばれていたW123時代中途の1977年から、初めて「T」の車名を掲げるエステートワゴン(S123系)を設定した。

「230TE」ないしは「280TE」などのグレード名が授けられたS123系ワゴンは、高級なワゴンを求めていたマーケットに歓迎されて大ヒットを博し、その成功は現在の「Eクラス」に継承されている。

 しかしそのメルセデス・ベンツでも、最上級モデルの「Sクラス」には現在に至るまでワゴンモデルを正規設定していない。

 そこで、ドイツ本国をはじめとするヨーロッパやアメリカ、時には日本のスペシャリストたちが、Sクラスをベースとしたカスタムワゴンを製作してきた。

 今回は、そんなカスタムSクラスの1台。クラシックカー/コレクターズカー・オークション紹介最大手のRMサザビーズ社が、2021年初の大規模オークションとして1月22日に開催した「ARIZONA」オークションに出品された1990年型「560SEL」のワゴンコンバージョン車、その名も「560TEL」のあらましとオークションレビューを紹介しよう。

●1990 メルセデス・ベンツ「560TELエステート by カロ」

純正でSクラスにエステートがあったのかと思うほどの仕上がり(C)2020 RM Sothebys
純正でSクラスにエステートがあったのかと思うほどの仕上がり(C)2020 RM Sothebys

 1980年代後半以降、当時の旧西ドイツではのちにダイムラー・グループ傘下となる「AMG」をはじめ、「ブラバス」や「カールソン」、「シュルツ」などに代表されるパフォーマンス指向のチューナーたちが台頭していた。ところが、富裕層のなかには単に高性能だけでは飽き足らない、特別なメルセデス・ベンツを求めるコアなエンスージアストも存在していたという。

 そこで、もとよりスペシャルコーチビルドの土壌のあったヨーロッパ大陸では、その復活を期してボディやインテリアのカスタマイズへと乗り出してゆく。

 このムーブメントに乗った「キャラット・デュシャトレ(Carat Duchatelet)」や「ツェンダー(Zender)」、「トラスコ(Trasco)」、「スタイリングガレージ(Styling Garage)」、「ABC」、「ポルマン(Pollmann)」、そして1970年代からカスタムカーの分野で確たる実績を挙げていた「スバッロ(Sbarro)」のようなスペシャルショップたちは、メルセデス・ベンツの量産モデルを入手して、特別な顧客のために贅沢極まるカスタムカーを生み出していた。

 とくに、メルセデスの正規モデルには存在しないSクラス(当時はW126系)のエステートワゴンを製作するコンバージョンは盛んにおこなわれており、大西洋を渡ったアメリカでも複数のビルダーが参画していたのだ。

 さらには日本でも、国民的スターにして熱烈な自動車愛好家として知られる所ジョージさんが、国内のボディショップとともに製作したW126系「500SE」ベースのワゴンに「500TE」と名づけ、当時のメディアにもしばしば登場していたことを、今なおご記憶されているファンも多いことだろう。

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