フェラーリの廉価版ではない! アルファ ロメオ「モントリオール」の本気度とは?
超高級メーカーだった時代の伝統を1970年代に再現した、正真正銘のスーパースポーツ
万博会場で受けた高い評価に手応えを感じたアルファ ロメオ社首脳陣は、コンセプト提唱者であるベルトーネ側の強い意向もあって、モントリオールのシリーズ生産化に乗り出すことにした。
しかし「人類の最大の夢を具現化したクルマ」を標榜するには、直列4気筒という一般的なレイアウトで、排気量は最大でも2000ccのアルファ・ツインカムでは不十分、とも判断された。
そこで彼らは、当時のスポーツカー世界選手権タイトルを目指し、FIAグループ6レーシングスポーツとして開発された「ティーポ33」シリーズ用をベースとするV型8気筒4カムシャフトユニットを搭載するという英断を下すに至ったのだ。
当時アルファ ロメオ社傘下にあり、ティーポ33シリーズ以外にもツーリングカーレース用マシン、「1750/2000GTAm」に採用されていた「スピカ」社製インジェクションによって燃料供給が賄われるV8エンジンの総排気量は、「ティーポ33/2」の2リッターとも「33/3」の3リッターとも異なる2593ccに設定。ロードユーズを見越して200psにまでデチューンされてはいたが、それでも最高速で220km/h、0ー1000m加速で約28秒という、当時としてはなかなかの高性能を獲得するに至った。
一方、シャシは万博に出品されたコンセプトカーと同じく、スプリントGT系から流用することとなったが、最大の特徴である低いボンネットを損なうことなくV8ユニットを搭載するためには、多大な努力が払われることになる。
例えば、直4アルファ・ツインカム用の幅の狭いエンジンベイに収めるために、V8用クランクケースを小型化する必要に迫られた技術陣は、当時最新の航空機技術を導入した17kg/cm2という高い比重を持つタングステン鋼製カウンターウェイトを採用し、クランクシャフトを極限まで小型化することで対応した。
また潤滑システムはドライサンプ化され、ブロック天地を低めることにも成功している。さらに、インジェクション用の噴射ポンプやカバー類をVバンク内側に配置。ボンネット中央には大型のNACAスクープ風パワーバルジを設けるなどの諸策をひねり出し、なんとかミドシップ的に低いノーズを実現するに至ったのだ。
また前述のごとくフロアパンと、前ダブルウィッシュボーン独立/後トレーリングアーム固定のサスペンションをジュリア・スプリントGT系から流用するシャシは、一見手近なところで済ませたようにも思われるが、このレイアウトは1960ー1970年代初頭の欧州ツーリングカー選手権を席巻したGTAおよびGTAmシリーズにも採用されたものと基本的には変わらず、200psのモントリオールにも十分と判断されたようだ。
加えて、4輪ディスクのブレーキもジュリア系から踏襲されたが、ディスク面積を拡大するとともに、4輪ともベンチレーテッドに強化。その結果として生産型のモントリオールは、当時のメディアから、V8エンジンの性能はもちろんシャシのパフォーマンスでも高い評価を得ることになった。
そして1970年の正式発売から77年の生産中止までに、当時の高級スポーツカーとしては決して少なくない、3925台がアレーゼ工場からラインオフすることになったのだ。
近年になって再評価されつつあるものの、長らく「プアマンズ・フェラーリ」などと揶揄されていたモントリオール。しかしこのクルマは、コンセプトカーがそれ以上のエキゾティック性を帯びて生産化された稀有な1台だ。
そしてこれは、アルファ ロメオが現代のフェラーリに相当する超高級スポーツカー/GTメーカーだった時代の伝統を1970年代に再現した、正真正銘のスーパースポーツなのである。
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