5ナンバー車はないがしろ? デカくなる新型モデル! 小型と軽規格が邪魔をする日本市場の行方
もはや「5ナンバー車」にメリットがない?
では、なぜ小型自動車(5ナンバー車)は影を潜めてしまっているのでしょうか。
それは端的にいって、小型自動車であるメリットが薄れてしまっているからです。
そもそも、小型自動車という概念自体は古く、戦前にはいまのような区分制度が見られます。
その後改正を経て、1960年に現在と同様の小型自動車規格が制定されますが、当時はクルマそのものが贅沢品であり、ごく一部の富裕層のためのものでした。
富裕層から税金をとるのが世の常であったため、クルマもその標的となりましたが、一方でモータリゼーションも進んでいたため、小型自動車という規格を制定し、より贅沢品である普通自動車にはより多くの税金を課すという制度となったのです。
現在でも、一部地域で「3ナンバー」のタクシーがより上級なものとして扱われたり、駐車場で「3ナンバーお断り」という例が見られるのは、そうした時代の名残といえます。
しかし、バブルの頃になると、クルマそのものは決して贅沢品とはいえなくなるほど一般に浸透しました。
そうした流れを受けて、1989年には税制を改定。排気量や重量が同等であれば、小型自動車と普通自動車の税金面での差がほとんどなくなりました。
税制面の優遇が事実上ほとんどなくなったことで、小型自動車のメリットは「車体が小さいこと」とそれにともなう「車体価格の安さ」という2点に集約されるようになりました。
しかし、いずれも軽自動車にも見られる特徴であり、軽自動車のほうが明確に税制が安いことから、小型自動車を選択するメリットは薄れつつあります。

また、昨今の自動車業界事情も小型自動車には逆風です。ある業界関係者は次のように分析します。
「ここ10年ほど、自動車業界のトレンドは『プラットフォームの共有化』となっています。
少数のプラットフォームをベースに複数のモデルを開発することで、各市場のニーズに応えながらも生産効率を上げることができるため、コストメリットを得ることができます。
しかし、『小型自動車』というのはあくまで日本独自の規格であり、専用のプラットフォームを作るほどのボリュームはありません。
グローバルで売れる『3ナンバーサイズ』のモデルを日本に導入するほうが合理的です。
また、日本市場専用モデルを開発するのであれば、軽自動車のほうが販売台数を計算できるというメリットがあります。
この20年、クルマは大きく変化しました。多くの安全運転支援技術が搭載され、ディスプレイオーディオのような最新装備も増えました。
それにともない、新車価格も上昇しています。こうした価格上昇を最小限にするためには、プラットフォームの共有化によるコストダウンは必須です。
一方、小型自動車のような日本独自の規格は、そうした戦略の恩恵を受けることができません。
このように考えると、小型自動車は今後消えてゆく運命であることは間違いないでしょう。
例外的に残るのは、ごく一部の売れ筋モデルと、海外市場でも販売できるコンパクトカー、すなわち『結果的に5ナンバーサイズ』のモデルに限定されると思われます」
※ ※ ※
かつては明確なメリットのあった小型自動車ですが、現在では事実上その役目を終えたといえます。
市場特有の法規制が強すぎると、「ガラパゴス化」してしまうこともありますが、小型自動車に関してはユーザーに対しても明確なメリットが薄れていることから、近い将来、この分類自体が変化するかもしれません。
Writer: PeacockBlue K.K. 瓜生洋明
自動車系インターネット・メディア、大手IT企業、外資系出版社を経て、2017年にPeacock Blue K.K./株式会社ピーコックブルーを創業。グローバルな視点にもとづくビジネスコラムから人文科学の知識を活かしたオリジナルコラムまで、その守備範囲は多岐にわたる。


















