報道過熱「脱ガソリン車」は何が正しい? エコだけじゃない日本が抱えるエネルギー問題とは

「エコ」だけじゃない日本が抱える大きな理由とは

 では、なぜガソリン車(ディーゼル車も含む)が消えてしまう運命なのでしょうか。それには日本のエネルギー事情が関係しています。

 資源エネルギー庁の報告によると、日本のエネルギー自給率は2017年の時点で約9.6%と、OECD加盟国のなかでも非常に低い割合です。

 もともと、資源に乏しい国であることに加えて、2011年の東日本大震災以降原子力発電が見直されたことで、エネルギー自給率はさらに減少することとなりました。

 エネルギー自給率が低いということは、エネルギーを海外に頼らなければならないということです。

 ガソリンのもとになる石油がその代表的な例ですが、石油統計によると、2018年には約1億7000万キロリットルという膨大な量の石油を海外から輸入しています。

 そして、そのうちサウジアラビアをはじめとする中東諸国からの輸入が約88.3%となっており、非常に高い依存率であることがわかります。

 かつて、日本の石油輸入の中東依存率が高すぎたことで、1970年代の第一次オイルショックで政治的・経済的に大きく影響を受けたことから、1980年代には石油輸入元の分散化を進めた結果、中東依存率は70%以下まで減少しましたが、近年ではまた中東依存率が高まってしまっているのです。

 エネルギー自給率の低い日本ですが、エネルギー使用量は世界のなかでもトップクラスです。

 つまり、世界情勢の変化などで石油輸入が困難になった場合、いまのままではすぐに国家運営が破たんしてしまう危険性をはらんでいるのです。

 いうまでもなく、現在販売されているほとんどのクルマは、石油から精製されるガソリンもしくは軽油を使用します。

 ガソリン価格が日ごとに変動するのはすでに一般的なこととして受け入れられていますが、一般消費者が日常的に購入するもので、日々価格が変動するものはガソリン以外にはそれほど多くありません。

 それはすなわち、社会情勢の変化によって原油価格が高騰したり、輸入が制限されたりしたら、即座に一般消費者の家計に影響するということを意味しています。

膨大な量の石油を海外からタンカー船で輸入しています。
膨大な量の石油を海外からタンカー船で輸入しています。

 こうした日本のエネルギー事情を鑑みると、国家政策として「脱ガソリン車化」を目指すのは必然です。

 多くの人が、「脱ガソリン車化」=「クルマの電動化」は、環境対応、つまりは「エコ」を目的にしていると考えがちです。

 そうした論点では、電気自動車は排気ガスこそ出さないが、生産やリサイクルをする際に有害物質を生成してしまうことから総合的に見て必ずしもエコであるとはいえない、という意見もあります。

 これは、いわゆるライフサイクルアセスメント(LCA)という考え方であり、決して間違ったものではありません。

 しかし、世界各国が「エコ」だけを目的に「脱ガソリン車化」を進めているわけではありません。

 たしかに中国や北米では、排出ガスに起因する大気汚染による健康被害は、重大な社会問題といえます。

 一方、すでに健康寿命が世界的に見ても長い日本では、同じ論理は適用できません。

 暴論であることを前提にいえば、使用済みバッテリーの廃棄に関わる環境への影響は、今後の研究開発次第で解決できる可能性がありますが、エネルギー自給率が大きく改善するほど石油が湧いて出る可能性は万にひとつもないでしょう。

 もちろん、「エコ」が重要でないわけではありませんが、各国の政策を「エコ」というひとつの視点で見てしまうと、「脱ガソリン車化」の狙いは読み違えてしまうかもしれません。

※ ※ ※

 1997年に世界初の量産型ハイブリッド車であるトヨタ「プリウス」が登場した際、一般ユーザーの多くは、ハイブリッド車が2020年にこれほどまでに浸透しているとは思わなかったかもしれません。

 もちろん、商品としての魅力が大きかったことは大前提ですが、エコカー減税のようなハイブリッド車を推進する政策の後押しがあったことで、一気に加速したのは事実です。

「脱ガソリン車化」といっても、すぐにガソリン車が消えてしまったりするわけではありませんし、ガソリン車にはガソリン車の魅力があることもまた疑う余地はありません。

 しかし、とくに日本に関していえば、エネルギー自給率という国家存亡に関わる重大な背景があるということは理解しておく必要があるでしょう。

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Writer: PeacockBlue K.K. 瓜生洋明

自動車系インターネット・メディア、大手IT企業、外資系出版社を経て、2017年にPeacock Blue K.K./株式会社ピーコックブルーを創業。グローバルな視点にもとづくビジネスコラムから人文科学の知識を活かしたオリジナルコラムまで、その守備範囲は多岐にわたる。

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