バーチャル空間で実車を運転!? 世界初! ボルボの「究極のドライビングシミュレーター」とは
あっと驚くボルボの「究極のシミュレーター」とは?
次に登場したのが、ヒューマンファクターズ部門のシニア・デザイン・エンジニアのアレクサンダー・エリクソン氏です。
彼の前には、一般的なドライビングシミュレーターと、VR/ARを社会実装する上で欠かせない、バリヨ(Varjo)のヘッドセット「XR-1」を装着したエンジニアの姿が見えます。
ここにユーニティの3D技術を融合させ、リアルに近い運転感覚を実現しています。
実験例として、自動運転でのレベル3で、クルマのシステムから運転者に運転を移行する、テイク・オーバー・リクエスト(TOR)をおこないます。
具体的に何秒で安全運転に復帰できるのか、その方法として視覚や振動など、どのような接触方法が良いのかを検証します。
ただし、シミュレーターの外観としては、ほかの自動車メーカーや大学などの研究機関でも一般的におこなわれている機材と同じように見えて、これだけでは「究極の…」とはいい切れないという感想を持ちました。
シミュレーターの奥へ行くと、今度は「XC60」をベースとした試験車がありました。
案内役は、人中心での方法論と機械との研究をおこなう、ユーザーエクスペリエンス部門のシニア・テクニカル・リーダーのカスパー・ウィックマン氏です。
まずは、試験車両後部に搭載された各種機器を説明。続いて後席ドアを開けると、ノートパソコンを抱えて後席後部のモニターを見ているエンジニアの姿があります。
あとで分かったことですが、ライブストリーミングの最初からここまでが本番に向けた
“前段”だったのです。
ライブストリーミングの画面が、事前収録されたテストコースでの実走行風景に切り替わりました。すると、驚いたことが起こりました。
運転席に座るドライバーが、バリヨのVR/ARヘッドセットを装着した状態で、ハンドルを握りながら実車で走り出したのです。
ヘッドセット内の画面では、進行方向の右側から、大きなヘラジカが道路を横断しようとしています。
車両が自動で急ブレーキをかけると、ドライバーのテスラスーツから即座にデータが収集され、それがユーニティを活用したソフトウエアプログラム上で、人の動きとして助手席の位置で再現されました。
人に見えるデータの点群の集合体がアバターで、名称はエバです。まさに、リアルとバーチャルの融合です。
ウィックマン氏は「これと近いデバイスを使っている自動車メーカーがあると思いますが、(実車走行を直接絡めた)ここまで状態で具体的な研究開発をしているのは、世界で我々ボルボだけだと認識しています」とボルボの特異性を強調しました。
これがボルボがいう「究極のシミュレーター(アルティメート・シミュレーター)」です。
確かに、走行中の車内で、VR/ARヘッドセットを装着する実験について、筆者(桃田健史)は2019年1月に米・ラスベガスで、アウディ「e-tron」の後席乗車し、アウディがディズニーと共同開発したエンタメ系ソフトウエアを体験しましたが、実車の運転席でVR/ARヘッドセットということは、その時点で想像できませんでした。
近い将来、日系自動車メーカーも、こうしたリアルとバーチャルを融合させ、さまざまな走行シーンを再現しながらの自動車開発が当たり前になるのかもしれません。
Writer: 桃田健史
ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
近著に「クルマをディーラーで買わなくなる日」(洋泉社)。
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