新型コロナは関係ない? 世界のモーターショーが「オワコン化」しつつある理由とは
実際にクルマを買いたい人に向けた東南アジアの自動車ショー
では、モーターショーは、「オワコン」として、このまま消えていってしまうのだろうか?
個人的には、それはないと思う。なぜなら、モーターショーには、メディア向けではない、別の価値を持っているからだ。それは、ユーザーに現物のクルマを見せる/触らせるということのできる場、という価値だ。
我々のような自動車メディアに携わる人間としては、モーターショーには新型車を期待している。すでに発表され、発売されているクルマには正直、あまり興味はない。

しかし、一般の人はどうであろうか。すでに発売されているとはいえ、実際のクルマに触れるには、どこかのディーラーに行かなければならない。
たいていのディーラーは、クルマでのアクセスは良いものの、徒歩では不便な場所にあったりする。ディーラーを訪れるという行為は、意外にハードルが高いのだ。
そのため、メルセデス・ベンツではディーラーだけでなく、わざわざ羽田空港内や六本木という人が集まる場所に、クルマを展示するだけのスペースを用意した。
「なんとなく気になるけれど、買うとは決心できていない」という人がメルセデス・ベンツのディーラーを訪ねるのは、相当な勇気が必要だろう。しかし、ディーラー以外の場所であれば誰もが気軽に立ち寄ることができるというわけだ。
さらに、あるクルマを買おうと思ったとき、そのライバルも見てみたいと誰もが思うはず。そうした場に最適なのがモーターショーではないだろうか。
ちなみにタイやインドネシアなどASEANのモーターショーは、クルマを買う場所=トレードショーという側面が非常に強い。
展示車の隣に立つのは販売会社のセールスマン。展示場の横には、商談ブースが用意され、その隣にはローン申請のための銀行ブースが並んでいる。クルマを買いたい人にとっては、欲しいクルマだけでなくライバルも、その会場内ですべてを見比べることができる。さらに少々ドレスアップした展示車そのものを買うこともできるのだ。
そのためタイでは、モーターショーは年に2回も開催される。インドネシアでも自動車メーカー主催と、販売会社主催というふたつのモーターショーが存在するほど。もちろん、アセアンでのモーターショーは今も大人気イベントで、「オワコン」などと見る人はいない。「モーターショーに行けば、クルマを見て触れることができる」という価値が、ASEANでは強いのだ。
また、モータリゼーション真っただ中の中国は、購入の場ではないけれど、それでもモーターショーは大人気イベントだ。広い会場にぎっしりとクルマを並べており、一般開放日になると、恐ろしいほどの人が会場に駆けつけている。
ひるがえって日本はどうであろうか。2019年の東京モーターショーは、これまでにない新しい試みが数多く試された。トヨタなどは、市販するクルマをブースに置かず、完全にテーマパークのような展示内容としていた。
モーターショーを「クルマを楽しむ祭り」ととらえれば、それも正解だろう。しかし「新型ヤリスを見たかった(会場の外に展示されていた)」「昨年に登場したスープラを見たかった(会場のどこにも展示されていなかった)」という声も耳にした。

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インターネットの普及にともない、モーターショーのかつての使命だった「メディア向け」という役割は終わりつつあるのだろう。
しかし、一般ユーザーにとっての「2年に一度のクルマの祭り」という役割は残っている。また、購入希望者に向けた、実車を使ったプロモーションの場という役割も忘れてほしくない。
過去に盛り上がったモーターショーというのは、やはり注目される新型車の登場があったときだ。夢物語のコンセプトカーではなく、リアル感があって、しかも誰もが欲しいと思うような魅力的な新型車の提案。これさえあれば、十分にモーターショーは盛り上がるのではなかろうか。
大事なのはクルマそのもの。そんな基本に立ち返ってほしいと思うばかりだ。
Writer: 鈴木ケンイチ
1966年生まれ。國學院大学経済学部卒業後、雑誌編集者を経て独立。自動車専門誌を中心に一般誌やインターネット媒体などで執筆活動を行う。特にインタビューを得意とし、ユーザーやショップ・スタッフ、開発者などへの取材を数多く経験。モータースポーツは自身が楽しむ“遊び”として、ナンバー付きや耐久など草レースを中心に積極的に参加。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを、分かりやすく説明するように、日々努力している。最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。



















