メイドインジャパンの新型車減る? なぜ東南アジア製の日本車が急増するのか
日本車メーカーがタイの自動車産業を重視する理由とは?
こうしたなかで、2000年代のBRICs関連で大きく伸びたのがタイでした。
タイではこれまで、日本の自動車メーカーや部品メーカーの営業事務所や製造工場、また日系メーカーとの関係が深い日系大手商社など各地を巡ってきました。
日本人関係者の多くが、「タイは暮らしやすい」「タイ人と日本人は肌が合う」「日本で退職したらタイで暮らしたい」と、タイに対する友好的な表現を使います。
また、製造事業の観点では、電力や水などインフラが東南アジアのなかでは安定して供給されているほうですし、さらに輸出入の基盤となる商業港の整備が地方行政の肝いりでしっかり進んだことも、自動車産業にとって大きなプラス要因です。
こうした社会基盤がある上で、日本の自動車メーカーは、タイを東南アジア自動車産業の中心として捉え、工場設備を拡充。そのため、日本からの自動車部品産業もタイへの進出が進みました。
タイの日本メーカー製造工場を取材すると、「マザー工場」という言葉をよく聞きます。生産の技術の母体、という意味です。
1990年代までの海外工場は日本がマザー工場で、海外の関係者が日本に学ぶという形式で欧米の工場は順次独り立ちしていきました。
こうした流れが2000年代にBRICsでも始まり、同時にBRICs向けの製造もおこなうタイのマザー工場化が進んだのです。
キックスなど、タイからの輸出車の品質は、日本のマザー工場のお墨付きです。
タイからは、東南アジア各国向けの完成車輸出のほか、ドアなどの部品を輸出し、各国工場で最終組立をおこなう、ノックダウン方式にも対応しています。
また、ダイハツはインドネシアの地域事情に最適化した、小型ミニバン(MPV)でダイハツ、トヨタの両ブランドで人気車を現地生産しています。そうした実績の積み上げで、インドネシア製のダイハツ車の品質も向上していきました。
なぜ2020年になって、東南アジアから正規輸入モデルが増加傾向になってきたのでしょうか。
背景にあるのは、自動車メーカー各社による、世界市場での生産と販売を最適化する「選択と集中」の強化です。
たとえば日産の場合、ゴーン体制からの脱却のため、事業全体に大ナタを振る必要があり、ルノー日産三菱アライアンスをフル活用した「選択と集中」に着手。その一環がキックスです。
また、ダイハツを含むトヨタグループ全体としては、アフターコロナを見据えた、商用車事業での再編を念頭に、今回のグランマックス日本導入を決断したのではないでしょうか。
今後、条件があえば、東南アジアで生産されている、日本ではこれまで導入してこなかった各メーカーの世界戦略車が正規輸入されるかもしれません。
Writer: 桃田健史
ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
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