日産「マーチ」は実は輸入車!? 海外生産の日本車がイマイチ売れない理由
海外生産の日本車は本当に必要なのか?
スズキは、ハンガリー製のエスクードとSX4 Sクロス、インド製のバレーノを輸入しています。1か月の登録台数は、エスクードが230台、SX4 Sクロスは120台、バレーノは60台前後と少ないです。
スズキが海外製の輸入車を増やした目的は、小型/普通車の販売増強です。スズキは軽自動車が主力のメーカーで、いまは人気のカテゴリですが、ホンダや日産も軽自動車に力を入れたことから競争が激しくなりました。
軽自動車の販売増加に伴い、2015年には軽自動車税が従来の年額7200円から1万800円に引き上げられています。
スズキはこれらを将来の不安要素と考えて、小型/普通車の強化に乗り出しました。年間登録台数の目標を10万台に設定して、2016年前半にはバレーノの輸入を開始。国内生産のイグニスもデビューさせました。
その結果、2016年(暦年)の小型/普通車登録台数は10万2129台に達して目標を達成しました。2019年には12万2031台まで増えています。
国内向けの車両を開発するには多額の費用を要しますが、輸入すれば低コストで品ぞろえを増やせます。
1車種当たりの登録台数が少なくても、複数の車種で年間10万台なら可能だと判断しました。それでもスズキの国内販売に占める小型/普通車比率は18%なので、依然として80%以上が軽自動車ですが、ダイハツの普通車が全体の7%に比べれば多いといえます。
日本メーカーが海外生産車を輸入する理由はさまざまです。共通しているのは、輸入車は主力商品ではなく、ラインナップの補充を目的にしているということです。
日産が2010年に現行マーチをタイ生産に変更したときは、コンパクトカーでは、「ティーダ」、「キューブ」、「ノート(初代)」があり、コンパクトセダンの「ティーダラティオ」、5ナンバーサイズで車内の広い「ブルーバードシルフィ」も扱っていました。
SUVでは、「ジューク」が新型車として投入され、比較的コンパクトな「デュアリス」もありました。
小型車を豊富に選べたので、リーマンショックの影響もあり、マーチをタイ生産に移して合理化を図ったのです。
ところがその後、ティーダ、ティーダラティオ、デュアリスは廃止され、キューブも2019年末に生産を終えました。シルフィは3ナンバー車になって売れ行きが下がり、いま日産で堅調に売れる小型/普通車はノートとミニバンの「セレナ」のみです。
日産の販売店では「マーチが輸入車であることは、お客さまも我々も、とくに意識していません。しかしマーチは安全装備が乏しく、今はノートを選ぶお客さまが圧倒的に多いです」といいます。
輸入される日本車は、基本的に海外向けの商品なので、装備やグレードを国内のニーズに合わせて細かく変更することはできません。そのために販売面で不利になります。
また輸入車は、生産から納車までの期間が長いです。ユーザーの希望に合う在庫車がないときは、かなり待たされます。
この問題を避けるため、輸入車は国内生産車に比べると、グレードの数やメーカーオプションを減らして選択肢をシンプルにしています。
エスクードも以前は複数のグレードを選べましたが、いまは1.4リッターターボの4WDのみです。ほかの車種を含めて、選べる自由が乏しいことも、日本メーカーの輸入車が売れにくい理由となり、総じて顧客満足度が低いのです。
しかし、そこには今後の活路を見い出せる可能性も秘められています。本来なら日本のメーカーは、国内のユーザーと向き合って商品開発をおこなうべきですが、世界生産台数の80%から90%を海外で売るいまでは、日本は「オマケの市場」です。
その結果、国内で発売される新型車の数も大幅に減り、売れ行きが一層下がる悪循環に陥っています。
それなら豊富に用意される海外向けの商品、日本で買えない日本車の活用を積極的に考えても良いでしょう。
欧州で販売されるトヨタ「アイゴ」、国内仕様よりも後席の広い「カローラサルーン&ツーリングスポーツ」、日産「マイクラ」、コンパクトSUVのホンダ「BR-V」など、いろいろと考えられます。
日産がルノー「トゥインゴ」などをOEM車として扱うなど、業務提携を活用する方法もあります。新型車が何も登場しない最悪の状態は、避けるべきです。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
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