複雑デザインに陰り、いまはシンプルが人気? クルマのボディにあった凹凸が減った理由
最近のクルマは突起物が減って、スッキリとしたデザインが多いようです。クルマはメカニズムの進化について語られがちですが、実はデザインも時代とともに進化しているのです。
アンテナは長いポール状からシャープなフィンタイプに変化
最近のクルマを見ると、ボディの突起物とかデコボコが減ったように思います。車種によってはフロントマスクが少し繁雑に感じることもありますが、ボディパネルは総じてスッキリしてきたようです。クルマのデザインは、なぜデコボコが少なくなったのでしょうか。
ボディの突起物やデコボコが減った理由を、メーカーの開発者に尋ねました。
「ボディの表面は、以前に比べると滑らかになっています。例えばアンテナはフィンタイプが登場しており、これも進化してサイズが小さくなりました。また、空気抵抗も抑えた形状になっています」といいます。
確かにアンテナは、長いポール式だった時代に比べると、目立たなくなりました。ルーフの上にポールアンテナを装着した車種もありますが、この長さも以前に比べると大幅に短くなっています。
また別の開発者からは、「ホイールとフェンダーの段差なども、小さく詰められています。見栄えが良く、空気の抵抗も抑えられます。それからボンネットやドアパネルと、ボディとの隙間や段差も小さくなっています」というコメントもありました。
隙間がなくなれば、外観の見栄えがさらにスッキリします。走行中のホイールハウスで発生する空気の巻き込みなども抑えられるというわけです。
新型マツダ3は景色の映り込みを考慮した滑らかなボディパネルを実現
段差のないスッキリしたボディに仕上げるには、生産する工場の技術進化や理解も大切です。あるデザイナーがその苦労を明かしてくれました。
「デザイナーがいくら美しいボディをデザインしても、工場から『このような造形は市販車では実現できない』といわれたら、実際に商品として販売することはできません。工場の理解を得ることが大切です。
そこで開発の初期段階から、工場のスタッフにイメージスケッチなどを見せて、一緒になって造り込んでいくことがあります。
この時には工場側もデザイナーになるというか、立場を超えて作業を進めます。そうすると新しい造形も可能になるのです」
設計の新しいクルマには、ボディパネルの映り込みが美しく見える車種も増えていますが、そこにはデザイナーと生産する工場の相互理解があるわけです。
ちなみに従来のボディは、フェンダーやドアパネルに複数のラインを入れることが多かったです。光の当たり方や見る角度により、さまざまな陰影や表情が生み出されます。
このようなデザインは今でも多いですが、ラインをあまり入れずにスッキリとさせながら、映り込みがダイナミックに変化していくボディも生まれています。
マツダ「アクセラ」の後継モデルとして発売される「マツダ3」などが、これに当てはまるでしょう。
マツダ3では、塗装を含めて数多くの困難を乗り越えた結果、シンプルでありながらボディパネルが美しく映えるデザインを実現できました。
クルマはさまざまな技術の集合体で、それは主に走行性能や安全に関係するメカニズムについて語られます。これらと同様のチャレンジが、デザインについても行われているわけです。
新車を購入したら、一度は自分で洗車をしてみると良いでしょう。スポンジなどでボディを洗っている時に、ボディパネルが段差を抑えた滑らかな面で仕上げられ、微妙な曲線を描いていることが分かると思います。
ぜひ美しさを掌の感触で確かめてください。
【了】
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
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