3輪バイクのNIKENは、これからの未来に変化をもたらすか?
ヤマハ「NIKEN(ナイケン)」は、往年の名車「タイレル・P34」のクルマ作りに似ています。クルマの6輪、バイクの3輪、異質な組み合わせが実は正解なのでしょうか!
ブレーキングとコーナーリング性能向上を目指した結果3輪に!
40代以上のクルマ好きならば、子どもの頃に「タイレル(ティレル)・P34」のプラモデルを作ったという人も多いでしょう。フロント4輪&リア2輪の伝説的な6輪F1マシンのことです。
P34がなぜそんな構造になったのかと言えば、空力の向上を狙ってできるだけタイヤを小さくしようとしたことがきっかけでした。それまで13インチだったものを10インチにまで小径化し、空気抵抗をグッと下げたまではよかったものの、そのぶんタイヤの接地面積が減ってグリップ不足を招くなど、そう都合よく事は運びません。
そこでデザイナーは「だったらタイヤの数を増やして前後に並べれば、前面投影面積を増やさずにグリップを稼げるのでは?」と考え、1976年に実戦へ投入されたのがP34というマシンだったのです。
当初のもくろみとは裏腹に、フロントの4輪化は最高速アップにはそれほど貢献しなかった一方、意外な効果を生み出しました。それが減速と旋回力の向上だったのです。4本の10インチタイヤは2本の13インチタイヤよりも接地面積が格段に広くなり、グリップが増大。結果的にブレーキングを遅らせることができ、コーナーに向かってターンインする時のレスポンスやコーナリングスピードも稼ぐことができたというわけです。
専用タイヤゆえに開発が思うように進まず、そうこうしているうちにレギュレーションが変更されたこともあって、P34が見られたのは結局2シーズンに留まったものの、そのインパクトは大きく、今なお多くのファンに支持されています。
と、長々と書いておいてなんですがここまでは前フリ。今回のテーマは6輪のF1ではなく、3輪のバイクです。
実は先日、ヤマハから登場した新型バイク「NIKEN(ナイケン)」に試乗しました。その時、まっ先に思い浮かんだのがP34だったため、まずはこうした引き合いに出した次第です。
ご覧の通り、ナイケンの特異性はフロントに2輪を備える異形のたたずまいにあります。しかも一般的なロードスポーツの場合、タイヤは17インチが主流ですが、ヤマハはブリヂストンと開発した15インチの専用タイヤを用意。P34では副産物的なメリットだったブレーキングとコーナリング性能の向上を、このモデルでは意図して狙い、実際それに成功しているのです。
フロント2輪のもっとも分かりやすい特徴は、バンク中の安定性にあります。バイクを扱う時、不安感の多くはフロントタイヤに起因し、もしも滑れば意図して対処することは難しく、運にまかせるしかありません。そうならないように見極めるのがライダーのスキルであり、キャリアですが、ナイケンならそれが誰にでも分かりやすく、しかも限界が大幅に引き上げられているのです。