トヨタ新型「セリカ」!? ミッドシップ×4WDの「2ドアクーペ」登場! “2年目の進化”で激変した「GRヤリス Mコンセプト」どんなクルマになったのか
2026年10月24日から25日にかけて開催される第6戦スーパー耐久レースin岡山に合わせて「GRヤリス Mコンセプト(以下、Mコンセプト)」の改良モデルが登場しました。どのようなモデルなのでしょうか。山本シンヤ氏が解説します。
新型セリカじゃないの!? クーペ化の衝撃
2025年の東京オートサロンでサプライズ発表された「GRヤリス Mコンセプト(以下、Mコンセプト)」。次世代エンジンの直列4気筒2.0Lターボ(G20E)をキャビン背後のミドシップに積み、4輪を駆動するという、トヨタにとって初モノづくしの先行開発車両です。
市販化はおろか社内での商品化すら未定のテストカーでありながら、スーパー耐久シリーズという過酷な実戦の場で「公開開発」を続けています。

ハッチバックから流麗なクーペボディへの変貌
そのMコンセプトが、久しぶりにスーパー耐久に姿を現しました。岡山は昨年Mコンセプトがデビューした地ですが、どのような進化が見られるでしょうか。ピットに佇む実車を目にした瞬間、思わず二度見してしまいました。なんと従来のハッチバックスタイルから一転、極限までルーフを下げた流麗な「クーペボディ」へとドラスティックな変貌を遂げていたのです。
思わず開発陣に「これ、どこまでがGRヤリスなんですか?」「骨格もまったく違いますよね?」と直球で突っ込んでみると、ニヤリと苦笑いを浮かべながら「いやいや、全体として……GRヤリスです!(笑)」と、なんとも苦しい言い回しでお茶を濁します。
クーペボディ以外にも、Aピラーからルーフのライン、ドア(レクサス「LC」用!?)、そしてリア周りと色々と突っ込みたくなるディテールばかりで、どう見ても市販ヤリスの面影は薄くなっています。
さらに「これ、最終のセリカ(7代目)に似ていませんか?」と水を向けてみても、「いやー、私にはGRヤリスにしか見えないですけどねぇ」と、どこまでもシラを切り通す開発陣でした。
重心と空力を突き詰めた「機能の必然」
しかし、話を技術的な核心へと深めていくと、この「クーペ化」はお茶を濁したデザイン遊びなどではなく、極めてロジカルかつ切実な“機能の必然”から生まれたことが明らかになってきました。
開発陣に伺うと、その理由は端的に「重心と空力」にありました。一番の理由は、昨秋の岡山以降、S耐を走ることで浮き彫りになっていた「重心の高さ」の克服でした。
背中に重量物であるエンジンを抱えるミドシップにおいて、ハッチバックの車高はロールセンターと重心のズレを大きくし、限界域でピーキーなリバースステア(唐突なスピン挙動)を引き起こす原因になっていたのです。
とにかく全高を下げて重心を落としたいという思いに加え、もうひとつの決定的な要因が「リアウイングへの風の流れ」でした。ハッチバック形状のままではルーフ後端で気流が激しく剥離して渦を巻いてしまい、リアウイングに綺麗に風が当たらなかったのです。
ミドシップのリアを強烈なダウンフォースで路面に押し付け続けるためには、ルーフからなだらかに風をリアウイングへと導くクーペシルエットにするしかない……という判断だったそうです。
さらにミドシップ化に伴って常に付きまとう「熱問題」に対しても、ボディ上面の整流を見直して空気抵抗を減らしつつ、必要なインテークからフレッシュエアを吸い込むレイアウトを追求した結果、必然的にこのクーペスタイルへ辿り着いたのだそうです。
ミッドシップ4WDの手強さとポテンシャル
実はこのMコンセプト、全日本ラリーをGRヤリス Rally2で戦う勝田範彦選手もテストでステアリングを握っています。フロントエンジンのGRヤリスを自由自在に操ってきたラリー界のトップドライバーにとっても、このマシンの挙動は強烈な体験だったようです。
勝田選手は「最初は『これ、本当に世に出せるのか!?』と思うくらい難しさを感じました」と振り返ります。
トヨタにとって横置きベースのスポーツ4WDの知見はGRヤリス以降高まっていますが、ミドシップ4WDとなると完全に未知の領域です。
リアに重いエンジンがあるため、フロントエンジンのように前荷重を作ってステアリングの舵角で曲げていく乗り方ではまったく言うことを聞いてくれず……。何か挙動の乱れがあった際にブレーキを踏んでもダメで、ステアリングのレスポンスと駆動のコントロールこそがすべてだと語っていました。
しかし、その特性に合わせてドライバー側が乗り方を変え、リアのトラクションを使ってクルマを動かせるようになると、今度は「恐ろしいほどの面白さ」に化けるそうです。
良い部分と悪い部分がはっきりと顔を出すものの、悪い部分を削ぎ落としていけば、とんでもない武器になるクルマだと確信したと熱く語ってくれました。まさに開発陣が直面していた手強さと無限のポテンシャルを、勝田選手の言葉がそのまま裏付けています。
「これはGRヤリスです」と言い張る車体ですが、中身の進化もすさまじいものがあります。車体構造はもはや市販ヤリスのプラットフォーム“改”の枠を超え、ミドシップ専用の骨格・フレームへとほぼ新規で作り直されており、適所にカーボン素材を配したハイブリッド構造へと進化を遂げていました。
また、前後サスペンションにはともにストラット式を採用(これはそれ以前の試作車から)。これは軽量化を極める狙いはもちろんですが、将来的にカスタマーやプライベーターが競技の現場で使う際の「いじりやすさやセッティングのしやすさ」まで見据えたこだわりの選択だと言います。
さらにGR-FOURの前後トルク配分についても、開発初期の50:50ベースから、現在は「20:80」や「30:70」といった明確なリア駆動ベースへとシフト。
要するにフロントで引っ張るのではなく、リアタイヤの縦・横のグリップをフルに使い切って駆動でクルマを曲げ、フロントは立ち上がりの安定性を補うために添えるだけという、ミドシップ本来の操縦性を引き出すセットになっています。
プロとジェントルマンドライバーのタイム差
筆者(山本シンヤ)が最も興味深く感じたのは、マシンのハードウェアだけでなくエンジニアの「頭の中(クルマの評価法)」が劇的に変化したというエピソードでした。それは練習走行時における、開発ドライバーの一人である佐々木雅弘選手の新たな走らせ方がもたらした変化でした。
これまではコーナー奥のクリッピングポイントまでブレーキを残して減速旋回する「前輪駆動ベースの走り方」を基準にデータを評価していました。そのため、佐々木選手の要求の真意が掴みきれず、ミドシップなのにボトムスピードが上がらないというジレンマに陥っていたのです。
しかし、佐々木選手が実演して見せたのは、コーナーのはるか手前でスパッとブレーキを終わらせ、空走から手前のクリップで一気にアクセルを踏み込んで駆動力でクルマを曲げていくという走り方。
高いボトムスピードのままコーナーを脱出していくそのデータを目の当たりにした開発陣は、「これがミドシップの真の走らせ方か!」と気づき、クルマづくりの照準が一気に定まったのだといいます。
とはいえ、サーキットの現場は決して甘くはありません。走行を重ねるたびに、机上のシミュレーションでは絶対に起きないトラブルや新たな課題が次々と牙を剥きます。これこそが、豊田章男氏の言う「リアルストーリー」です。
開発陣が今まさに直面している悩みのひとつが、「プロとジェントルマンドライバーのタイム差の拡大」です。昨年の岡山デビュー戦では、プロドライバーに対してジェントルマンドライバーのタイム差は2秒落ち程度に収まっていました。
しかし、その後のテストやもてぎ、富士の実戦を経てマシンが進化するにつれ、プロのタイムが跳ね上がる一方でジェントルマン側のタイムが伸び悩み、その差が何秒も広がっていってしまったのです。
クルマのポテンシャルが上がり先鋭化したことで、プロのように限界領域で引き出しを使い切れるドライバーでないと乗りこなせないクルマになっていたのだとエンジニアは明かしてくれました。
ただ、誰でもスピンしない安全なクルマを作ると80点のトヨタ車になってしまう……。そう、目指しているのはそこではありません。Mコンセプトは腕のあるジェントルマンがしっかりと引き出しを開ければプロに近い走りとタイムを引き出せる、そんな懐の深さをどう持たせるか、今まさにそのスイートスポットを探っている最中なのだそうです。
トラブルを乗り越え現場で鍛える「アジャイルなクルマづくり」
ハードウェアの課題もまだまだ山積みの状態です。今回のレースウィーク中、現場を最も青ざめさせたのはオルタネーター(発電機)のトラブルでした。
佐々木選手のロングラン走行中にオルタネーターの周囲温度が一気に100度を超えて電圧が急変動し、佐々木選手から無線で「煙い! 臭い! ピットに入るから消火器を用意して!」と緊急コールが入る緊迫の事態に見舞われ、ピットインしたマシンのオルタネーター周辺が燃え上がってしまったそうです。
これは熱問題ではなくハード側の問題であり、早速原因究明を進めているとのことでした。
さらに今回から搭載された6速MTでも、操作系の壁に直面しました。走行を終えたモリゾウ選手が「シフトミスばかりで運転に集中できない」と首を傾げたのです。調べると体格の違う佐々木選手とモリゾウ選手ではシートポジションが大きく異なるため、佐々木選手に合わせて前寄りに設定されていたシフトレバーのニュートラル位置が、モリゾウ選手のシート位置からは微妙に斜めにズレて見え、3速から4速へ入れるつもりが2速へ吸い込まれてしまう構造的なトラップが生じていたといいます。
ステアリングやシートは動かせてもシフトレバーやペダルボックスの位置関係をどう共通化するか、そしてウインドシールド越しに見える視界(アイポイント)とマシンの挙動インフォメーションをどう整合させるか──レーシングカーとして突き詰めるほど人間とクルマのインターフェースという深淵な課題に直面するとエンジニアは教えてくれました。
メカニックとエンジニアは連日ピットに残り、オルタネーターの対策やシフトリンケージの調整、ペダル類を適合させました。
その後、モリゾウ選手が「何の問題もなくスコスコ入るようになった!」と満面の笑みで語り、佐々木選手直伝のドライビングを吸収して大幅なタイムアップを果たしました。
壊れては直し、走ってはカイゼンする……。この泥臭い試行錯誤の積み重ねこそが、市販車開発では決して味わえない「アジャイルなクルマづくり」の真髄と言えるでしょう。
モリゾウが語る挑戦の真意
走行後、パドックで章男氏……いやモリゾウ選手に率直な手応えと心境を伺うことができました。今年は股関節の手術やオフロードでの転倒など色々ありましたが、コンディションをしっかりと整えて岡山に挑んだモリゾウ選手。
「やっと走れたな、というのが正直ホッとしているところですね」と安堵の表情を見せつつ、久しぶりに右足ブレーキとマニュアル操作で走れる喜びを噛み締めていました。
同時に、今回のシフト位置トラブルを振り返りながら、マスタードライバーとしての自身の役割をこのように語っています。
「プロドライバーだけに頼ってクルマを作っていると、レーシングカーとしては良くても、ジェントルマンも乗るクルマとしては最後のところで抜け落ちてしまう部分が出てきます。僕が乗ることで、『こんなことあるの!?』というシフトのズレや操作系の不具合が見つかる。そこにまだ、僕がマスタードライバーとして乗る存在意義があるんじゃないかなと思っています」
マシンそのもののステアリングフィールについても、手応えは着実に深まっているようです。
「完成したら、きっとすごく気持ちいいクルマになると思いますよ。僕の乗り方はまだGRヤリス(フロントエンジン4WD)の感覚が残っているけど、ミドシップはブレーキングからアクセルを踏み込むタイミングまで、もっと繊細な会話がクルマと必要になります。
でも、その対話をクリアしたときには、すごく楽しいクルマになる予感があります。
ラリーカーのようにリアに駆動をかけながらシューッと旋回し、アクセルで引っ張って立ち上がっていく……そんな走りができるようになれば最高ですね」
そして、長年トヨタが掲げてきたクルマづくりの枠組みを打ち破る挑戦について、熱い想いを明かしてくれました。
「従来のトヨタ車は安全第一で『止めよう、止めよう』と制御しがちでしたが、そうではなくドライバー主導でアクセル……つまり“駆動”で曲げていくクルマづくりにチャレンジしてほしいです。
このクルマはGR86やGRスープラを超えて、ミドシップ4WDをゼロから作れる会社になれるかどうかの挑戦なんです。『えっ、トヨタのミドシップってこんなに凄いの!?』と世界を驚かせるクルマに育てていきたいと思っています」
名目上は「GRヤリス Mコンセプト」とお茶を濁しつつも、その実態はトヨタが本気でピュアスポーツを目指してゼロから挑んでいる「ミドシップ4WDスポーツ」そのものです。ハッチバックを脱ぎ捨て、クーペボディという本気の戦闘服をまとったテストカー。
このクルマが次期セリカであることは公然の秘密ですが、この挑戦が市販車という名のゴールにたどり着くまで、私たちはその野性味あふれる試行錯誤を熱く見守り続けたいと思います。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。












































