日産校の学生が挑むフォーミュラEV 自動車業界を担う技術と人材育成の今
自動車技術の向上と人材育成を目的とする学生フォーミュラ。そのEVクラスに、日産京都自動車大学校の学生チームが参戦します。11名の4年生を中心に編成されたチームは、昨年の課題を克服すべく冷却性能や操縦安定性を向上させた車両を開発しました。全種目完走を目標に掲げる、彼らの取り組みを紹介します。
次代の技術者を育む学生フォーミュラとは
日本の自動車産業を担う次世代の技術者育成において、実践的なものづくりの経験が重要視されています。
そうした状況下で、学生が自らレーシングカーを企画から製作まで行い、総合力を競い合う「学生フォーミュラ」が開催されています。
今回は、この競技のEV(電気自動車)クラスに参戦する「日産京都自動車大学校」のチームに焦点を当てます。
昨年度の経験を活かし、チーム一丸となって全種目完走を目指す学生たちの活動背景や、開発された車両の特徴、そして大会に向けた現場での取り組みとはどのようなものなのでしょうか。

現在の日本の自動車産業において、少子化による学生数の減少や若年層の理科離れは、将来的な国際競争力および企業競争力の低下につながる課題とされています。
くわえて、近年の工学系大学における実習や設計、製図などのカリキュラムが減少傾向にあることで、欧米と比較して実践的なものづくりの機会が不足している現状があります。
米国においては「Formula SAE」などの大会が開催されており、学生が実際のものづくりを通じて自身の知識や能力を発揮する環境が提供されています。
産学官の連携により、技術者育成の基盤が構築されているのが特徴です。一方で、日本国内にはソーラーカー大会やロボットコンテストといった全国規模の大会は存在しますが、自動車技術の分野において専門技術を実践的に発揮できる設計コンテストは少ない状況でした。
そうした背景から学生フォーミュラは、こうした課題に対応するための取り組みとして開催されています。
学生が実際に図面を引き、部品を加工して車両を組み上げるプロセスに接することで、技術への理解を深め、実践的な能力を養う環境を提供しています。
ものづくりの本質を学ぶと同時に、チーム活動を通じた作業の厳しさや課題解決の経験を通じて、創造性を備えた優秀な若手技術者の育成を目指しているのです。
学生フォーミュラは、フォーミュラスタイルの小型レーシングカーを学生がチームを組んで企画、設計、製作し、その成果を持ち寄って競い合う大会です。
審査の対象は車両の走行性能にとどまらず、車両の設計思想やコスト管理など、ものづくりにおける総合力が問われます。
マシンの製作過程において、学生は機械や電気など幅広い分野の実践的な知識を習得します。さらに、車両の性能向上や原価低減、商品性の向上といった実際の現場に近い課題に取り組みます。
これにより、企業が若手技術者に求める「自ら問題を発見し、解決していく能力」の向上が期待されます。また、プロジェクトを進行するうえで、限られたリソースのなかでメンバー間のチームワークやリーダーシップを発揮することが求められるため、学生にとって実務に直結する経験を積む場となっています。
実際の審査は、厳密な車検から始まり、「静的審査」と「動的審査」に分けられます。静的審査では、コスト、プレゼンテーション、デザインの3項目が評価され、設計の論理性や予算管理能力が問われます。
動的審査では、アクセラレーション、スキッドパッド、オートクロス、エンデュランス、効率の5項目による実走行評価。これらを合わせた計1000点満点で順位が決定され、安全性、デザイン性、そして走行スピードを総合的に高い水準でまとめ上げたチームが優勝となります。

様々なチームが参戦する学生フォーミュラ。そのなかでEVクラスに参戦する「日産京都自動車大学校EV」チームは、学校の課外活動として編成されています。
今年度は4年生11名が主体となって活動し、3年生は見学という形で参加する体制をとっています。数十人規模のチームもあるなか、11名という少人数体制であるため、各班の役割を明確にし、限られた人員と時間を有効に活用しながら車両の開発を進めてきました。
少人数であることは、意思決定が迅速に行えるという利点をもたらすといいます。設計変更や試作のサイクルを短く回すことが可能であり、各班の連携と情報共有を密に行うことで、車両の完成度を高めてきました。今回投入される車両は、昨年度の仕様をベースに改良を加えた2年目モデルです。
車両のアップデートにおいて、車体骨格と足まわりを担当するフレーム班は、スタビライザーを新たに導入。これにより、コーナリング時の車体のロールを抑制し、動的審査における安定性と応答性を向上させています。
車体姿勢が安定することは、タイムの短縮だけでなくドライバーの疲労軽減にもつながり、操作ミスの低減に寄与。また、メーターパネルを新設し、時速やモーターの回転数などの車両状態を即座に視認できるようにしました。
これにより、ドライバーは正確な情報に基づいた操作が可能となり、トラブルの兆候を早期に発見することに役立てられます。
さらに、8月開催という環境下でのEV車両特有の課題である「冷却」に対しても対策が施されています。連続走行や路面温度の上昇により、バッテリーの冷却は過熱による出力低下や保護制御の介入を防ぐために不可欠です。
そこで、横方向のエアフローを見直したカウル形状を採用し、走行時の自然風をバッテリーへ効率的に導くダクトを追加。過度な開口を避け、空力と冷却のバランスを考慮した設計により、電子機器の誤作動リスクを抑え、安定した走行を維持するアプローチが取られています。

開発の現場について、サブリーダーでありデザインを担当するIさんは、プロジェクトの進行について五百藏さんは、「製作自体は昨年の大会が終わってからすぐに始まり、具体的にどう改良していくかを話し合いました。11ヶ月ほどの期間をかけて準備を進めてきました」と説明します。
昨年の反省を踏まえ、次世代への引き継ぎから初期の図面検討、試走での不具合の修正といった工程を見直し、時間をかけて着実に車両を仕上げてきました。
今年の車両で注目してほしい点について尋ねると、「昨年度の車両は、動的審査のオートクロス途中で止まってしまいました。その反省から、今年は信頼性を向上させることに注力しています。すべての動的審査をノートラブルで走り切り、車検や静的審査も含めて全種目を通過できるところを見てほしいです」(Iさん)と語ります。
冷却用導風ダクトの追加やスタビライザーの導入といったアップデートも、すべてはこの「走り切る」という目標を達成するための堅実な改良です。
大会への意気込みについては、「結成以来、チームとしてまだ全種目を完走したことがありません。今年も厳しい状況はありますが、まずは全種目完走を目指します。そして、今回の大会で得られるデータや知見をしっかりと蓄積し、来年以降の後輩たちが完走に向けて動けるようにバトンをつなぎたいと考えています」(Iさん)と、当面の結果だけでなく、今後のチームの発展を見据えた姿勢を示しました。
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日産京都自動車大学校EVチームの今年の目標は、「全種目完走」という明確なものです。昨年度の大会で直面した課題に真正面から向き合い、スタビライザーの導入やメーターパネルの刷新、バッテリー冷却用導風ダクトの追加など、走行性能と信頼性を底上げする改良を重ねてきました。
11名という限られた人員と11ヶ月という準備期間のなかで、少人数体制ならではの密な連携力と迅速な意思決定を活かし、不具合の予防に努めてきます。過酷な環境下での走行を見据え、瞬間的な速さよりも確実に走り切るための装備と熱対策を優先した設計は、学生たちが自ら問題を発見し、現実的な解決策を講じた結果です。
また、今年の結果にとらわれず、大会を通じて得られた知識や設計データを来年度の後輩へ継承しようとする姿勢は、学生フォーミュラが目指す技術者育成の目的そのものです。
学生たちが蓄積した11ヶ月の努力が、実際の審査や走行の舞台でどのような成果として現れるのか、チームの着実な走りが期待されます。
Writer: くるまのニュース編集部
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