サーキットの通信環境を劇的に変える!? モータースポーツ委員会が「サーキット共用ネットワーク」の実証実験を開始
レース開催時のサーキットでは、来場者やチーム、メディアの通信需要が急増し、繋がりにくさが課題となっていました。この問題を解決するため、日本自動車会議所のモータースポーツ委員会は、国内の主要サーキットで設備をシェアする「サーキット共用ネットワーク構想」を発表し、富士24時間レースで実証実験を開始しました。
サーキットが抱える「通信」の現状と課題
現代のモータースポーツにおいて、快適な通信環境は欠かせないものとなっています。
しかし、山間部に位置することも多いサーキットでは、通信の繋がりにくさにストレスを感じたことがある人もいるかもしれません。
そんな課題を解決すべく、日本自動車会議所のモータースポーツ委員会が動き出しました。「スーパー耐久シリーズ第3戦富士24時間レース」の会場にて、加地雅哉委員長から、大容量データ通信に対応した「サーキット共用ネットワーク構想」とその実証実験について説明が行われました。
日本自動車会議所のモータースポーツ委員会は、「クルマを日本の文化に」という目標のもと、モータースポーツをひとつの「インダストリー(産業)」として確立し、発展させることを目指して発足しました。
現在、JAFや二輪のMFJをはじめ、国内主要レースを運営するGTA、JRP、STMO、さらにメーカー系のGRやHRCやNMCが参画しています。
業界共通の課題を解決するため、広くモータースポーツの認知度を高める「魅力向上タスクフォース」、オフィシャルやメカニックなどの人材確保を目指す「人材タスクフォース」、そしてデジタライゼーションと通信網の構築を担う「DX通信タスクフォース」の3つを立ち上げ、できるところから順次取り組みを進めています。
今回の説明会は、この中の「DX通信タスクフォース」の取り組みに関するものです。
レース開催時のサーキットでは、通信需要が局地的に急増します。具体的には、来場者による動画視聴やSNSへの写真・動画投稿、キャッシュレス決済をはじめ、エントラント(チーム)による走行中の車載映像や車両データ(テレメトリ)の伝送などが行われます。
さらに、メディア関係者による大容量の写真・動画データのアップロードや、運営側でのレース映像の配信、デジタルフラッグなどのシステム連携など、多方面で膨大なデータ通信が必要とされています。
その一方で、レースが開催されていない日には通信量が極端に少なくなるため、年に数回のビッグイベントのためだけに各サーキットが単独で巨額の費用を投じ、高性能な通信インフラを常設するのは負担が非常に大きいという課題がありました。
そこでモータースポーツ委員会が打ち出したのが、「サーキット共用ネットワーク構想」です。
これは、国内の主要サーキット(オートポリス、岡山国際、鈴鹿、富士スピードウェイ、もてぎ、SUGO)を大容量の通信回線で繋ぎ、ネットワーク設備を各サーキットで“共用”しようというものです。
インターネットの接続部分などの基幹システムを全国で共用し、イベントの開催に合わせて必要な設備を持ち回りで活用することで、サーキット単体の投資コストを抑えつつ、どのサーキットに行っても安定した大容量通信を利用できる環境を目指しています。

この構想の実現に向け、今回の「富士24時間レース」において具体的な実証実験が行われました。今回は、ウーブン・バイ・トヨタが保有する大容量通信ネットワークを一時的に「大動脈」として活用し、主に3つの検証が行われました。
まず1つ目は、エントラントによる「走行車両データの伝送」です。
32号車「TGRR GR Corolla H2 concept(水素エンジン車両)」などを対象に、走行中の車両から映像やテレメトリデータを安定してピットへ伝送できるかを検証し、チームの戦略判断や安全性の向上に貢献することを目指しました。
2つ目は、大容量通信ネットワークによる「メディア向け通信品質の改善」です。
シスコシステムズの技術協力のもと、メディアセンターやラウンジに複数のアクセスポイントを設置し、これまで遅くて不安定になりがちだった写真や動画のアップロード作業を高速化することで、より迅速な情報発信を可能にする環境を構築しました。
そして3つ目は、通信網内の配信サーバ設置による「低遅延の動画配信実証」です。
インターネットイニシアティブ(IIJ)の協力を得て、サーキット内で生成した映像を外部のインターネット回線を経由せずにローカルで配信する仕組みを用いることで、遅延を大幅に抑え、リアルタイム性の高い映像を直接手元のスマートフォン等へ届ける検証を行っています。
加地委員長は今後の展望について、「まずはメディアやエントラントに向けた環境整備から始めているものの、最終的にはお客様(来場者)も含めた幅広い利用者が快適に使える通信環境へと拡大していきたい」と語りました。
2026年4月にオートポリスで行われたStarlink(衛星通信)を用いた実証実験でも、目標値を大きく上回る通信速度を記録しており、当面は常設の光回線網の整備と並行して、衛星通信なども併用しながらインフラ構築を進めていく方針です。
また、将来的には高品質な通信環境を「有料のプレミアムサービス」として来場者に提供するなどのマネタイズの可能性についてもあり得るといいます。
現代では「お金を払ってでも快適な通信環境が欲しい」という来場者のニーズは高く、持続可能なエコシステムを構築するためのビジネスモデルの検討も進められています。
サーキットの通信インフラが整備されれば、観戦の快適性が劇的に向上するだけでなく、新たなエンターテインメント体験の創出にも繋がります。
モータースポーツ委員会の「共用ネットワーク構想」が、日本のレース観戦の風景をどう変えていくのか、今後の取り組みに大きな期待が寄せられます。
Writer: くるまのニュース編集部
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