デジタル化で進むIT人材不足… 自動車メーカーの課題は? 各社が取り組む新たな育成と獲得策とは

日本の自動車業界は構造的な人手不足に直面しています。高齢化が進む整備士の不足に加え、車両のデジタル化に伴うITエンジニアの確保が急務となっています。本記事では、整備現場や製造工場の現状を整理し、過去に実施された産官学連携の人材育成事例を交えながら、自動車産業における人材獲得の解決策を解説します。

 自動車産業を取り巻く環境は転換期を迎えています。

 従来の機械的な構造から、ソフトウェアが車両の価値を左右する時代へと移行する中で、必要とされる人材の要件も変化しています。

 製造や整備を担う現場の労働力不足が慢性化する一方、自動運転開発などに不可欠なIT人材は他業界との獲得競争が激化しています。

 国土交通省や経済産業省の資料、および関連機関の動向に基づき、業界全体が取り組むべき人材戦略の実態を紐解きます。

 自動車整備分野における有効求人倍率は2018年度時点で4.46倍に達しています。

 同年度の全職種平均が1.46倍であることを踏まえると、整備士の不足は顕著です。

 整備要員の平均年齢は45.3歳まで上昇しており、自動車整備学校の入学者数も減少傾向にあります。

 この対策として、2016年4月から外国人技能実習制度に自動車整備職種が追加されました。

 さらに2019年度からは特定技能制度が導入され、5年間で最大7000人の外国人材の受け入れが見込まれています。

 一方、製造現場の人手不足は、高齢化や出生率低下といった人口構造の変化に起因する問題です。

 日本の工場では、コスト削減を目的とした完全無人化ではなく、生産安定性の確保を目的とした自動化が進められています。

 専門的な技術者が不足している現状もあり、既存の人材で維持できる堅牢な自動化システムが採用される傾向にあります。

【読者アンケート】自動車業界の「デジタル変革(DX)と人材不足」に関する意識調査
自動車産業の人手不足。整備現場の課題とITエンジニア育成の過去事例から探る解決策(写真は編集部で生成したAI画像)
自動車産業の人手不足。整備現場の課題とITエンジニア育成の過去事例から探る解決策(写真は編集部で生成したAI画像)

■IT領域に迫る人材不足

 自動車の電子制御化が進む中、車両を構成する部品の総原価に占める電子部品の割合は、2004年から2015年の間に19%から40%へと拡大。

 それに伴い、自動車ソフトウェアのソースコードは1億行以上の規模に膨れ上がっています。

 このような背景から、自動車メーカーでは知能系や情報系を中心に、外部委託先を含めて数千人規模のIT人材が不足すると推計する企業も存在します。

 システムの全体理解に基づく要求分析が可能なアーキテクトや、専門性を要するセキュリティ人材の不足感が強まっています。

 しかし、IT人材の獲得においては世界のテクノロジー企業との競合が発生しており、人材の確保は容易ではありません。

■産官学連携の育成事例

 ITエンジニアの不足に対応するため、過去にも様々な取り組みが実施されてきました。

 海外では、学生による自動走行車両の競技会を通じた人材育成が行われています。

 米国では2004年から「DARPA Challenge」が開催され、ドイツでは2006年から学生フォーミュラに自動運転カテゴリが設けられました。

 国内においても産学官が連携した取り組みが存在します。

 2019年には、試験路における自動走行のアルゴリズム精度を競う「Japan Automotive AI Challenge」が開催されました。

 また、大学と連携した実践的な教育も進められており、2006年から名古屋大学で組込みシステムの人材育成講座が提供されているほか、2017年からはトヨタ自動車と滋賀大学が共同でデータサイエンティスト育成を目的とした「機械学習道場」を開設しています。

 さらに、経済産業省の「未踏アドバンスト事業」では、2018年度からAIの研究者をプロジェクトマネージャーに起用し、高度AI人材の育成を図っています。

スバルのデジタル開発の一例として、アップルと協業することで従来は横長対応だったCarPlayを縦長対応にしている
スバルのデジタル開発の一例として、アップルと協業することで従来は横長対応だったCarPlayを縦長対応にしている

 また近年、自動車メーカー自らがIT人材の獲得に向けて、デジタル開発拠点を都心部のIT集積地に設置する動きが活発化しています。

 スバルは2025年2月26日、渋谷エリアで2拠点目となる「SUBARU Lab」を開設しました。

 同社は2020年12月にも同エリアにAI開発拠点を設けており、運転支援システムにAIを融合させる研究を行ってきました。

 新拠点ではADASやEV制御、ソフトウェア面でのサービス拡大などへ領域を広げます。

 IT企業が集積する渋谷にオフィスを構えることで、AIやソフトウェア開発人材の的確な採用と、他企業との連携を見込んでいます。

 マツダは2025年初夏に、東京都港区の麻布台ヒルズに新たなR&Dオフィスを開設。

 生成AIなどの技術が普及する中、従来のハードウェアに加えて高度なソフトウェア開発が不可欠との判断に基づいています。

 自由なワークスペースや最新機器を導入し、ソフトウェア技術者が働きやすい環境を整備するとともに、首都圏の大学や企業との共創の場として活用する計画です。

デジタル開発拠点を都心部のIT集積地に設置する動きが活発化(画像はマツダのデジタル開発における採用資料)
デジタル開発拠点を都心部のIT集積地に設置する動きが活発化(画像はマツダのデジタル開発における採用資料)

■課題は…業界の魅力発信と労働環境

 自動車業界がIT人材を獲得するためには、業界特有の魅力を効果的に発信することが求められます。

 ウェブ系やモバイル系のエンジニアからは、自動車業界への転職はハードルが高いと認識される傾向があります。

 そのため、「クルマを作る」という従来の視点ではなく、「クルマとITを掛け合わせて生活や移動を豊かにするサービスを提供する」というエンドユーザーに向けた価値創造を訴求することが有効とされています。

 また、自動車業界にはデータが蓄積されており、データサイエンティストなどのIT人材にとって有用な環境であることを提示することも重要です。

 現場の自動化戦略においても、人と機械の協調を前提とし、外国人労働者を含めた多様な人材が経験や言語の壁を越えて働ける標準化された環境を整備することが不可欠です。

 製造、自動化、人員計画を包括的に捉えることのできる人材の育成が、今後の産業維持の鍵となります。

【画像】これはスゴい! マツダ・スバルのデジタル開発とは

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Writer: くるまのニュース編集部

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