日産の「高級“MR”スポーツカー」! 1.2リッター「直3」搭載で400馬力超え!? 全長4.4m級の“コンパクトボディ”もイイ米のインフィニティ「エマージe」とは

日産の海外向け高級ブランド、インフィニティがかつて発表した、息をのむほど美しいミッドシップスポーツカー「エマージ・イー」。市販化が熱望された幻のモデルは、どのようなクルマだったのでしょうか。

美しさと速さを兼ね備えた「ミッドシップマシン」

 自動車メーカーは、モーターショーなどの晴れ舞台で未来の方向性を示すコンセプトカーを発表します。中には市販化を前提とした現実的なモデルもあれば、ブランドの定義そのものを問い直すような意欲的なモデルも存在します。

 過去を振り返ると、2012年3月、スイスで開催された「ジュネーブモーターショー2012」において、インフィニティが世界初公開した「エマージ・イー(Emerg-e)」は、世界中の自動車ファンを驚かせました。

1.2リッター「直3」搭載で400馬力超え!
1.2リッター「直3」搭載で400馬力超え!

 エマージ・イーは同ブランド初となるミッドシップ・スポーツカーのコンセプトモデルであり、電動化技術と高性能を融合させた、レンジエクステンダー(航続距離延長装置)付きの電気自動車(EV)スポーツカーです。

 開発コンセプトは”持続可能な高性能車の提案”でした。特筆すべきは、これが単なるデザインスタディのショーカーではなく、”将来の方向性を示すための、実走行可能な高度なプロトタイプ”として開発された点です。

 実際、同年6月に英国で開催された「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」では、F1ドライバーのマーク・ウェバー氏がステアリングを握り、多くの観衆の前でヒルクライムコースを疾走してみせました。

 その完成度の高さと美しいスタイリングは、「歴代インフィニティで最も美しい」と絶賛されました。

 現在でもSNSなどでは、「なぜこのまま市販しなかったのか」といった市販化断念を惜しむ声や、色褪せないデザインへの称賛が数多く見られます。

 ボディサイズは、全長4464mm×全幅1954mm×全高1219mmと、スポーツカーとして理想的な低くワイドなプロポーションを持っています。

 エクステリアには、当時のインフィニティ特有の、流れるようなデザイン言語が体現されています。

 空気を切り裂くような流線型のシルエットを持ち、ミッドシップレイアウト特有の低いノーズと長いリアデッキが特徴です。

 ”ダブルアーチグリル”やCピラーの”クレセントカット”といったブランドの象徴的な造形は、単なる装飾ではなく、空気抵抗を低減しながらダウンフォースを生み出すよう機能的に設計されています。

 インテリアは、ドライバーを中心に配置されたコクピットレイアウトを採用。カーボンファイバーを構造材としてあえて見せるデザインとしつつ、高品質なレザーやアルカンターラを組み合わせることで、先進性とラグジュアリーを融合させました。

 パワートレインは、ツインモーターEVに発電用のレンジエクステンダーエンジンを組み合わせたシステムです。駆動方式は、2つのモーターで後輪を駆動する後輪駆動でした。

 システム最高出力は300kW(約402hp)、最大トルクは驚異の1000Nmを発揮し、0-60マイル(約96km/h)加速はわずか4.0秒をマークします。

 航続距離は、EVモードで約48km、レンジエクステンダー使用時で約480kmとされ、EV特有の航続距離への不安を解消しています。

 なお、ミッドシップに搭載される発電用エンジンは、ロータス・エンジニアリングが開発した1.2リッター直列3気筒エンジンでした。

 このエマージ・イーの大きな特徴の一つは、”欧州で開発されたインフィニティ”であるという点です。

 英国にある日産テクニカルセンター・ヨーロッパが中心となり、ロータスなどの協力を得て開発されました。日本車の信頼性と欧州スポーツカーのハンドリング性能の融合を目指した、意欲的なプロジェクトだったのです。

 残念ながら市販化は実現しませんでしたが、その流麗なデザインのエッセンスは、後の「Q50(スカイライン)」や「Q60」などで見受けられます。

 エマージ・イーは、インフィニティが描いた”走りの未来”を象徴するアイコンとして、今もファンの記憶に刻まれているのです。

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Writer: 佐藤 亨

自動車・交通分野を専門とするフリーライター。自動車系Webメディア編集部での長年の経験と豊富な知識を生かし、幅広いテーマをわかりやすく記事化する。趣味は全国各地のグルメ巡りと、猫を愛でること。

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