トランプ砲で全米に「軽」解禁!? 軽自動車の米国販売を容認へ!規制緩和指示の裏にある日米交渉の思惑は? 米国解禁という“奇策”の真意

米国トランプ大統領が2025年12月3日、日本の軽自動車の米国販売を認める方針を表明し、規制緩和を指示した。なぜ今なのか。背景には「アメ車が日本で売れない」不満の解消や、トヨタ等の米国車逆輸入と対になる日米通商交渉の駆け引きが見え隠れする。現地生産の可能性など、この発言がもたらす自動車産業への衝撃を解説する。

米トランプ大統領、軽自動車をアメリカ市場で開放へ

 アメリカのトランプ大統領が12月3日、日本の軽自動車をアメリカで製造・販売することを認める方針を表明しました。

 すでにダフィー運輸長官に対して、アメリカでの軽自動車に関する規制緩和を進めるよう指示したと報じられています。

 なぜ、このタイミングでアメリカが軽自動車の規制緩和なのでしょうか。

米トランプ大統領、軽自動車をアメリカ市場で開放へ(画像はイメージ/日産サクラ)
米トランプ大統領、軽自動車をアメリカ市場で開放へ(画像はイメージ/日産サクラ)

 その背景を考えるために、まずは軽自動車の歴史と海外展開について振り返ってみましょう。

 軽自動車は、日本の道路環境や社会事情を考慮した国内専用の車両規格。第二次世界大戦後、経済成長の兆しが見え始めた時点で、国は多くの人が乗用車や商用車を所有することを目指した”国民車”として構想したのが始まり。

 大きな転機としては、1979年に登場したスズキ「アルト」があります。低価格を売りにして、主婦から若者まで幅広い層に向けた商品戦略は大成功を収めました。

 その後、スズキ「ワゴンR」とダイハツ「ムーヴ」などのハイトワゴンが市場全体を牽引し、2010年代に入ると軽自動車の主役はホンダ「N-BOX」を筆頭とするスーパーハイトワゴンに移っていきます。
 2024年時点で、国内乗用車販売台数における軽自動車のシェアは33%。そのうちスーパーハイトワゴンが54%という市場構成。

 商用車では農業を中心に軽トラックに対する需要が根強いものの、軽トラック市場全体としては減少傾向にあります。

 また、近年はEVでも軽自動車への注目が集まっています。日産「サクラ」は日本で最も売れているEVであり、ホンダが「N-VAN e:」と「N-ONE e:」で軽EV市場拡大を狙っているところです。

 さらに2026年夏頃には、中国BYDが軽自動車規格で専用設計した軽EV「ラッコ」を日本導入することが大きな話題になっています。

 軽自動車の海外展開については、1950年代後半以降、ダイハツ「ミゼット」がタイやインドネシアで小型タクシーなどで人気となるなど、東南アジアでの複数の発売事例があります。

 インドでは、スズキが進出した1980年代から90年代にかけては、日本の軽自動車をベースとしたモデルが主流でしたが、インドの経済成長が拡大する中で乗用車を主体とするモデルラインアップへと変化していきました。

 こうした中、アメリカでは2010年代以降に、軽トラックブームが発生。

 これは、製造から25年以上経過したモデルについては、燃費規制や衝突安全規制などを大幅に緩和してアメリカでの使用を認める、いわゆる”25年ルール”を活用したものです。

 25年ルールの恩恵によって、「GT-R」や「シルビア」などの様々なスポーツモデルに加えて、軽トラックの中古車が日本からアメリカへ流れている状況で、これによって日本国内ではこうした中古車の相場の急騰をまねいています。

 その上で、軽トラックに対する25年ルールは、アメリカの州や地域によって法規が違うことが問題視されてきました。

 トランプ大統領の今回の発言は、こうして25年ルールを第一に考えたものとは言えないでしょう。事務方からは、25年ルールにおけるアメリカ市場の混乱を是正べきとの進言があったかもしれませんが。

 それよりも、やはり日米通商交渉における新たなる日米交流の”ひとつの手段”と考えるべきでしょう。

 トランプ大統領は常々「アメリカには多くの日本車が走っているが、日本でアメ車をほとんど見かけない」という考えを示してきました。

 日米通商交渉では、日本からアメリカへの5500億ドル(1ドル155円換算で85兆2500億円)の新規投資を条件に、自動車関税を15%(2.5%+追加関税12.5%)で決着。

 これ以外にも、トヨタがアメリカへ今後5年間に最大100億ドル(1兆5500億円)の追加投資を行うと表明するとともに、アメリカ生産車の日本輸入を検討中です。

 スーパー耐久シリーズ2025最終戦が開催された富士スピードウェイでは、トヨタが「アメリカパーク」と名付けたスペースに、フルサイズピックアップトラックの「タンドラ」、ミッドサイズSUVの「ハイランダー」、セダンの「カムリ」を展示し自動車産業界で大きな話題となりました。

 また、国がフルサイズピックトラックのフォードFシリーズを公用車として購入するとの一部報道もあります。

 こうした、アメ車の代名詞であるフルサイズピックアップトラックの日本導入に対して、日本車の代名詞である軽自動車がアメリカで規制緩和されることは、メディアやSNSでの話題性も含めて社会に大きな影響を与えることでしょう。

 ただし、軽自動車は高コストな割に利益が少ない商材であり、アメリカで軽自動車生産の新規投資分を早期に回収するには、かなり綿密な事業計画が必要でしょう。

 その中で気になるのが、三菱の加藤隆雄社長が一部メディアとの取材の中で、アメリカでの生産を日産、ホンダと連携して進めることを検討中と発言している点です。

 もしかすると、アメリカ市場にあった新設計の軽自動車を生産するのか、それとも「デリカミニ」「サクラ」「N-ONE e:」などが混流する”夢の軽自動車ライン”が実現するのかもしれません。

 いずれにしても、今回のトランプ発言が軽自動車の未来に大きな影響を与えたことは間違いありません。今後の動向を見守りたいと思います。

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Writer: 桃田健史

ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。

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