WRCを「クルマのまち」の文化に! ラリージャパン開催で豊田商工会議所が期待するモノとは

WRCラリージャパンが豊田市で開催。地元の豊田商工会議所は、自らラリーに参戦するなどユニークな取り組みで「ラリーの聖地」を目指す。単なるイベント支援に留まらない、地域振興の戦略と地元企業の思いを取材。

目指すは「ラリーの聖地」。WRCを一過性に終わらせない地元企業の想いとは

 2025年11月6日から9日に愛知県・岐阜県で開催されている世界ラリー選手権(WRC)「ラリージャパン」。

 開催地である愛知県豊田市では、地元の経済団体である豊田商工会議所が、単なるイベント支援に留まらないユニークな取り組みを進めています。

「クルマのまち」を「ラリーの聖地」へ。同会議所に、WRCを意識した地元の想いとはどのようなものなのでしょうか。

世界中から豊田市にWRCファンが集まる、この機を地元企業はどう活かすのか?(クレジット: Rally Japan)
世界中から豊田市にWRCファンが集まる、この機を地元企業はどう活かすのか?(クレジット: Rally Japan)

「クルマのまち」として世界に知られる豊田市。その地元経済を支える豊田商工会議所が、今、ラリージャパンの盛り上げに力を入れています。

 そもそも商工会議所とは、商工会議所法に基づき全国各地に設立されている地域経済団体です。

 中小・小規模事業者の経営相談に応じたり、まちの賑わいづくりに取り組んだりと、様々な事業を通じて地域経済の活性化を後押ししています。

 また、民間と行政の「橋渡し役」として、補助金などの施策を周知したり、逆に現場の声を要望として行政に届けたりする役割も担っています。

 豊田商工会議所もこうした地域振興を担うなかで、モータースポーツに本格的に関わり始めたのは、比較的最近のことだと同会議所で参与を務める小栗保宏氏は語ります。

「これまで商工会議所としては、交通安全への取り組みなどが中心で、モータースポーツという分野には深く関わってきませんでした。

 しかし、2018年にTOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジ(ラリチャレ)が豊田市で開催されるようになり、さらにWRCの日本ラウンドが豊田市を拠点に開催されることが決まったのが大きな転機となりました」

 WRCという世界的なビッグイベントの開催は、豊田市にとって「クルマのまち」の新たな側面をアピールする絶好の機会となりました。商工会議所もこの機を逃さず、ラリーを通じた地域活性化へと舵を切ることになります。

豊田商工会議所 参与 小栗保宏氏が地元でのWRC開催を語る

 豊田商工会議所の取り組みで特にユニークなのが、自らラリーチームを運営し、ラリチャレに参戦している点です。全国の商工会議所を見渡しても、極めて珍しい試みと言えるでしょう。

「2020年から『We Love とよた号』というラリーカーを仕立て、TGRCへの参戦を続けています。2025年で6回目のシーズンを迎える予定です。当初は全日本ラリー選手権で優勝経験のあるプロドライバーを起用し、上位入賞を目指していましたが、2023年からは方針を変えました」

 その狙いは、ラリーの「裾野を広げる」こと。現在は、地元の大学に在籍する学生ドライバーにステアリングを託し、若手人材の育成にも力を入れています。

 この活動は、地元企業の熱い支援によって支えられています。豊田商工会議所には2024年度末時点で約6700もの事業所が会員として名を連ねていますが、そのうちの数十社がこのラリー参戦に協賛。車体に貼られたステッカーには、各社の「クルマのまちを盛り上げたい」という思いが込められています。

 またWRCの開催機運を市全体で盛り上げるため、商工会議所が主催する大規模イベントも活用されています。それが、豊田スタジアムを会場に行われる「産業フェスタ」です。

「産業フェスタは、市内企業や農協などの協力のもと、物産展や企業PRが行われるイベントで、例年2日間で約10万人が来場します。コロナ禍による中止を経て2022年に再開してからは、特にラリーコンテンツを充実させています」(小栗氏)

 会場にはラリーブースが設けられ、ラリーカーの展示やeスポーツによるラリー体験、関連グッズの販売が行われます。

 さらに、プロドライバーによる迫力満点のデモランも実施。WRCをまだ観たことがないファミリー層など、幅広い市民にラリーの魅力を直接伝える貴重な場となっています。

「これまではWRC本番直前の秋(9月~10月)に開催してきましたが、2026年は5月の開催を予定しており、時期が変わる中でWRCとどう連携していくか、現在検討しているところです」と小栗氏は話します。

11月6日には豊田市駅前の公道を封鎖してラリージャパンのイベントを開催、多くのファンが集まった(クレジット: Rally Japan)
11月6日には豊田市駅前の公道を封鎖してラリージャパンのイベントを開催、多くのファンが集まった(クレジット: Rally Japan)

 WRC開催による経済効果について、小栗氏は「肌感覚としてもホテルや旅館の賑わいを実感しています。これはWRCだけでなく、ラリチャレの際にも宿泊需要があり、飲食を含めた地域経済に好影響を与えています」と分析。

 商工会議所は実行委員会とも連携し、市内約120社の企業を訪問して協賛を募る活動も行っています。しかし、その目的は単なる資金集めだけではないと言います。

「協賛いただいた企業様へのリターン(特典)として、観戦チケットをお渡ししています。これは、ぜひ多くの従業員やご家族の皆様に、地元で開催される世界最高峰のラリーを直接体験してほしい、という思いからです」

 協賛企業の中には、自動車部品メーカーなど、一般消費者向けのPR効果が直接見えにくい業種も少なくありません。それでも多くの企業が協力を惜しまない背景には、共通のビジョンがあります。

「豊田市を、単なる工業都市としてだけでなく、モータースポーツ文化が根付く『ラリーの聖地』にしたい。WRCという素晴らしい機会を通じて、『クルマのまち・豊田』の新たな魅力を国内外に発信し続けたいのです。そのために、商工会議所としてラリーを盛り上げていくことが我々の役割だと考えています」(小栗氏)

 WRCを一過性のイベントで終わらせず、地域の文化として定着させるため、豊田商工会議所と地元企業の挑戦は続きます。

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Writer: くるまのニュース編集部

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