ブリヂストンは2025年10月23日、経営トップである代表執行役 グローバルCEOの交代を発表しました。2026年1月1日付で、現職の石橋秀一氏に代わり、森田泰博氏（現代表執行役 副社長）が昇格します。

　創立100周年（2031年）を見据え、経営トップを大幅に若返らせることで「質を伴った成長」を加速させる狙いです。森田氏は会見で「必ずNo.1に返り咲く」と力強く語りました。

　今回の交代は、2031年に迎える創立100周年を見据えたもので、「経営トップを一気に若返らせ、さらなる成長と企業価値向上を目指す」としています。

　同社は中期事業計画（2024-2026）において、事業再編・再構築に一定の目処をつけ、プレミアムタイヤ事業やソリューション事業の基盤が整ったと判断。この「質を伴った成長」ステージへ移行する重要なタイミングでトップを交代し、成長をさらに加速させたい考えです。

●「基盤は整った」石橋現CEOが語る6年間の歩みと交代の狙い

　同日開催された記者会見に登壇した現CEOの石橋秀一氏は、2020年の就任から現在までを振り返りました。石橋氏は、就任時に掲げた「過去の課題に正面から向き合、先送りしない」「足元をしっかり、実行と結果に拘る」「将来への布石を打つ」という3つの柱について説明しました。

　事業の再編・再構築といった「過去の課題」については、「厳しい経営判断の連続でしたが、大きなリソースを投入しめどがついた」と報告。一方で「足元の業績」については、売り上げ4兆3000億から4000億レベル、調整後営業利益率11%から12%レベル、ROIC9%レベルと就任前2019年の数字からは改善したものの、「狙っていた目標には届かず、課題を残しています」と冷静に分析しました。

　そして「将来への布石」として、新技術「ENLITEN（エンライトン）」やものづくり基盤技術「BCMA」、ソリューション事業の拡充、さらに2026年秋から予定されている「フォーミュラE世界選手権」への参戦といったブランド強化策にも言及。

「強いビジネス体質構築に向けて、現在、このように基盤が整いつつあります」と述べ、「質を伴った成長への移行を、ようやくスタートしたこのタイミングで、トップ交代を実施するものです」と交代の意義を語りました。

　後任となる森田氏については、次期経営人材育成プログラムの第一選抜メンバーであったことを明かし、「26年1月（就任時）には53歳と圧倒的に若く、行動力あふれる人材です」と紹介。

　創業者の石橋正二郎氏、2代目の石橋幹一郎氏を除けば歴代最年少であり、約22年という海外ビジネス経験も歴代最長である点に触れ、「森田さんの軽快なフットワークと現場力で、実行と結果にこだわる。グローバルで、質を伴った成長及び企業価値向上へ加速をすることを、大いに期待するところです」とエールを送りました。

　なお、石橋氏は2025年12月31日付で代表執行役を退任し、2026年3月開催予定の定時株主総会終結をもって、任期満了により取締役を退任する予定です。

●「創立100周年に世界No.1へ」 森田次期CEOが掲げる“3つの成長の柱”

　続いて登壇した森田泰博次期CEOは、まず現在の事業環境を「守り優先から攻め・質を伴った成長へと移行する、そういう重要なタイミングであると認識している」と述べました。

　その上で、2031年の創立100周年に向けた強い決意を下記の通り表明しました。

「1988年にファイアストン社買収を経て、2000年代半ばにタイヤ会社世界No.1にたどり着きました。その後、最近は世界2位というのが定位置になりつつあります。

　私は2031年、創立100周年を世界No.1で迎えたい。No.1で迎えなければならない。そういう強い思いと覚悟を持って、ここに立っております。必ずNo.1に返り咲く明確な意志を持って、ブリヂストンをより大きく、より美しく磨き上げていきたい」

　森田氏は、この目標を達成するための「成長の柱」として3点を挙げました。

　1つ目は「魅力的な商品とものづくり」です。タイヤ事業を成長の中心と位置づけ、「肝心要は、やはり魅力的な商品です」と断言。

　大学時代は自動車部に所属し、「タイヤが大好き、クルマが大好き」と語る森田氏は、「みんなでワクワクするような商品を企画し、開発をしていきたい」と意気込みます。また、ものづくりにおいても「原点に立ち返って、競争力向上への飽くなき挑戦を続けてまいります」と、現場力の強化を誓いました。

　2つ目は「グローバルポートフォリオを磨いていくこと」です。森田氏自身、海外7カ国で計22年弱の勤務経験を持ちます。「どこで生産し、どこで販売し、どのルートで運ぶのか。この組み合わせが収益性には大きく影響します」と指摘。

「商品軸と地域軸というポートフォリオに加えまして、成長性や収益性、あるいは循環経済観点、そういった軸も含めてグローバルポートフォリオの戦略性をさらに高め、成長力を強化してまいります」と述べ、経営資源の最適配分を進める考えを示しました。

　3つ目は「ブランドを磨いていくこと」です。中核に据えるのはモータースポーツ活動であり、目指すのは「サステナブルなプレミアムブランド」の構築です。

　来年後半から単独サプライヤーとしてタイヤ供給するフォーミュラEにも触れ、「レースの楽しみと、持続可能なモビリティ社会への貢献、この両立への挑戦を通じて、サステナブルなプレミアム、そういう方向へ当社のブランドが育っていく。実際の行動を伴った形のブランドづくりが大切だと思っております」と語りました。

●「現場人間」として国内外を奔走、新CEOの手腕に注目集まる

　自身の強みを「私は現場人間」と語る森田氏。これまで世界50カ所以上の生産工場、2000店以上の販売店を見てきた経験が、状態を見極め、予兆を感じ取る力を養ってきたと自負しています。

　会見の最後には、「今後も国内外を飛び回り、各国のメンバーと汗をかきながら、現場感を失うことなく、活力のある経営を進めてまいります」と、力強く語りました。

　石橋氏が整えた「質を伴った成長」への基盤を引き継ぎ、歴代最長の海外経験と現場主義を武器に「世界No.1」奪還を誓う森田次期CEO。「サステナブルなソリューションカンパニー」を目指すブリヂストンの、若返った新体制での次なる一手に関心が集まります。