「高齢ドライバー」の事故抑止につながるか!? 滋賀県警が実施する「お試し自主返納」とは?“クルマのない生活”体験で考えるキッカケづくり

近年、高齢ドライバーによる重大事故が相次いで発生し、その防止策について議論されています。そのような中、滋賀県警がおこなっている「お試し自主返納」という取り組みが注目されていますが、一体どのような内容なのでしょうか。

免許返納後の生活をイメージできる新たな取り組みに期待感も

 2025年10月15日の午前7時40分頃、愛知県名古屋駅近くの交差点で高齢ドライバーの運転する軽自動車が横断歩道を渡っていた歩行者3人をはねる事故が発生しました。

 この事故により30代から40代の男女3人が救急搬送されましたが、このうち49歳の女性が亡くなりました。

 過失運転致傷の疑いで現行犯逮捕された71歳の男性ドライバーは、「人にぶつかっていない」と容疑を否認しており、警察では認知症の可能性もあるとみて捜査を進めています。

「お試し自主返納」で”気づき”をうながす!(画像はイメージです)
「お試し自主返納」で”気づき”をうながす!(画像はイメージです)

 最近は、このような高齢ドライバーによる重大事故のニュースを目にする機会が増えています。警察庁の統計においても、特に75歳以上の高齢ドライバーによる死亡事故が近年増加傾向にあることが明らかになっています。

 現在は高齢ドライバーによる事故をいかに防止するかが課題となっており、運転免許証の返納やクルマを手放すことなど、あらゆる対策が議論されています。

 しかし、いざ免許証を返納すると生活が不便になったり、高齢者が外出しなくなって活力を失ったりと、返納後の生活に支障が出ることも指摘されています。そのような中、滋賀県警がおこなっている「お試し自主返納」という取り組みに注目が集まっています。

 このお試し自主返納とは、高齢者の免許証の自主返納を促進するため、返納をためらう高齢者に自動車を運転しない体験をしてもらい、公共交通機関の利便性や家族のサポートなどに対する「気づき」をうながすもので、県警が2023年度から開始した事業です。

 なお、2025年度は以下のような要件で募集をおこなっています。

ーーー
対象者:運転免許証を保有している県内在住の高齢者(65歳以上)

募集期間:2025年5月7日~募集人数上限200人に達するまで

募集人数:先着200人

参加期間:1か月程度で本人が希望する時期
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 県警によると、参加を希望する場合は滋賀県警察本部 交通企画課高齢者交通安全推進室に電話で申し込むか、滋賀県内の警察署交通課窓口で申し込みをおこなう必要があります。

 申し込みの際に、参加期間を本人が希望する時期で1か月程度設定すると、その後自宅に「お試し自主返納証」や参加特典などが郵送されます。

 そして、この事業に参加すると協賛事業者や協賛自治体からさまざまなサービスを受けられます。

 たとえば協賛店や自治体などで免許証とお試し自主返納証を合わせて提示した場合、コミュニティーバス・タクシーの回数券の無料交付や、鉄道会社の乗車券の割引といったサービスがあります。

 これは“お試し”自主返納であるため、実際に免許証を返納するわけではありませんが、免許証返納後のクルマのない生活をイメージできるのが大きな魅力といえるでしょう。

 滋賀県警の担当者はお試し自主返納のメリットや効果について、次のように話しています。

「あくまで“お試し”なので参加の心理的ハードルは低く、気軽に参加していただくことができます。

 運転に依存しない生活を体験することで、運転継続の可否について真剣に考え、また、その家族等が運転継続について話し合うきっかけになり、多くの方の自主返納につながっています」

 実際のところ、昨年度は200人参加者を募ったところ200人の参加があり、2025年3月末時点で44人が免許証の自主返納をしました(返納率は22.0%)。さらに今年度は集計中であるものの、100人を超える応募があるということです。

 ちなみに、お試し自主返納を利用した人からは次のような反響が寄せられています。

「クルマがない生活は不便だが、事故のリスクを考え自主返納を検討しようと思う」

「日常の生活は問題なく、もしもの時は娘が送迎してくれた」

「近くに駅があるので返納しても大丈夫と思った」

 このように自主返納に対して前向きな声が寄せられる一方、以下のように自主返納をためらう声もあります。

「返納するつもりでいるものの、近くにバス停すらなく、クルマを手放すのは勇気がいる」

「電車では荷物が重たくて買い物に行けない」

「大都市圏居住なら返してもいいと思うが、滋賀では免許を持っていたい」

 いずれにせよ、実際にお試し自主返納を体験することで運転免許の必要性や、自宅周辺の公共交通機関の利便性などを改めて見直すキッカケにつながるといえるでしょう。

 県警はお試し自主返納の今後に関して、「協賛事業者や協賛自治体のさらなる拡充に努めています」と話しています。

※ ※ ※

 滋賀県警では現在、高齢者が免許証返納後の生活をイメージできる取り組みとして「お試し自主返納」という事業をおこなっています。

 この取り組みに対してはSNS上で「いろいろ試してみるのは良いこと」「返納を迷っている高齢者が一歩踏み出せる機会になったらいいな」など好意的な受け止めも広がっており、高齢ドライバーによる事故防止対策の一つとして期待感が高まっています。

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Writer: 元警察官はる

2022年4月からウェブライターとして活動を開始。元警察官の経歴を活かし、ニュースで話題となっている交通事件や交通違反、運転免許制度に関する解説など、法律・安全分野の記事を中心に執筆しています。難しい法律や制度をやさしく伝え、読者にとって分かりやすい記事の執筆を心がけています。

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