トヨタ「アルファード・ミニ」!? 5ナンバーサイズの「小さめ“高級ミニバン”」! 豪華な「広びろ内装」採用&約270万円からの「エスクァイア」とは
2014年、トヨタは5ナンバーサイズのミニバン市場に「高級」という新たな価値観を持ち込んだ「エスクァイア」を投入しました。しかし、華々しいデビューとは裏腹になぜ1代限りで姿を消してしまったのか。その理由と、中古車市場で見せる意外な魅力に迫ります。
5ナンバーサイズに詰め込まれた「小さなアルファード」という野心
トヨタ「エスクァイア」は、「ノア/ヴォクシー」の兄弟車として2014年に誕生し、2021年まで販売された5ナンバーサイズの“プレミアム”ミニバンです。
エスクァイアの狙いは、実用一辺倒になりがちなMクラスミニバンに「高級」という価値を持ち込み、都市部でも扱いやすいサイズで上質さを楽しめる新提案でした。発売直後には月販目標の5倍超となる約2万2000台を受注し、強い初速を示しました。

ボディは5ナンバーサイズに収まる全長4695mm×全幅1695mmに収めつつ、アルファードを彷彿とさせる縦基調の大型メッキグリルや上質色の専用ボディカラーで堂々とした佇まいを演出しました。
ノアの親しみやすさ、ヴォクシーのスポーティさに対し、エスクァイアは“威厳”を前面に出したのが個性です。
インテリアは合成皮革や本物のステッチ、黒木目調パネルなどを惜しみなく用い、深い色調の「バーガンディ」内装も設定。触れて実感できる質感の高さが魅力でした。
7人乗りのキャプテンシート仕様では2列目に“超ロングスライド”を採用し、足元の余裕でリムジン的な居住性を実現。3列目は左右跳ね上げ格納で大きな荷室を確保でき、乗り降りしやすい低いフロアや広いスライドドア開口部など、日常使いの実用性も磨き上げていました。
パワートレインは2リッターガソリン(3ZR-FAE)と1.8リッターハイブリッド(2ZR-FXE+モーター)を用意し、ガソリンはFF/4WD、ハイブリッドはFFを設定しました。滑らかなSuper CVT-iや高遮音ガラス、ハイブリッドの静粛性など、走りの上品さにもこだわっていました。
燃費は世代途中での改良を重ね、WLTCモードでガソリン13.6km/L程度、ハイブリッド19.8km/L程度を達成(グレード・仕様により異なります)。新車時価格はガソリンで約270万円台から、ハイブリッドで約310万円台からのレンジでした。
安全・快適装備も年次改良で強化され、2019年以降は予防安全パッケージ「トヨタセーフティセンス」を標準化しました。世代上の制約で最新世代の検知対象すべてには届かない面もありましたが、モデル末期までブラッシュアップが続けられたことは特筆に値します。
では、なぜ魅力的なのに1代で終わったのでしょうか。第一に、トヨタ全チャネル併売への舵切りで、兄弟3モデル体制の意義が薄れたことが考えられます。店頭でノア/ヴォクシーが同時に選べるなら、性格の近い3番目の選択肢は整理対象になりやすくなります。
第二に、主要顧客である子育て世代の“最大公約数”ニーズ(価格・実用・維持費)と「上質さ重視」という訴求のズレが徐々に顕在化したことが考えられます。
第三に、アルファードという強大な“本家ラグジュアリー”の存在が大きかったと推測できます。
小さなアルファード的な世界観は刺さる一方、真に豪華さを求める層は上級モデルへ、コスパ重視層はノア/ヴォクシーへと流れやすく、結果的に独自ポジションの維持が難しくなりました。これらの要因が重なり、生産は2021年で終了しました。
それでも「どこがスゴかったのか」と問われれば、答えは明快といえます。5ナンバー枠の中で、素材・加飾・触感にまで踏み込んだ“クラスを超えた内装体験”を量販価格で実現したこと、そしてひと目でわかる威厳あるデザインでファミリーミニバンの“画一感”を打ち破ったことでしょう。
エントリー価格域でも装備が厚く、同価格帯のノア/ヴォクシーと比べ、内装の満足度で優位に立てる点も強みでした。
現在の中古車市場では、エスクァイアは安定した流通と“狙い目感”を併せ持っています。大手サイト上では全国で1200台超の在庫があり、平均相場は約210万円となっています。
初期・多走行なら60万円台から、末期・低走行・上級グレードは400万円超まで幅広く、ボリュームは2016〜2019年式の「Gi」や「ハイブリッドGi」に集中します。
総じてヴォクシーより平均価格が抑えめで、ノアと同等かやや割安という傾向が見られます。つまり“同じ予算で一段上の内装”を得られるケースが多く、価値ある選択肢といえます。
中古を検討される際は、用途に応じて選び分けるのが良いでしょう。上質な内装と静粛性を重視するならハイブリッド「Gi」、雪道や山間部が多いならガソリン4WD、価格重視なら前期のガソリン「Gi」あたりが狙い目となります。2019年以降は安全装備の標準化が進むため、予算が許せば年式の新しい個体が安心です。
まとめると、エスクァイアは“コンパクト・ラグジュアリー”という難題に真正面から挑み、短命ながら確かな足跡を残しました。企業戦略の転換と市場の重心の変化により1代で幕を下ろしましたが、いま中古で選ぶ価値はむしろ際立っています。
5ナンバーサイズの扱いやすさと、一目で伝わる上質さ。その両立こそがこのモデルの本質であり、賢く選べば長く満足できる一台だといえるでしょう。
Writer: 佐藤 亨
自動車・交通分野を専門とするフリーライター。自動車系Webメディア編集部での長年の経験と豊富な知識を生かし、幅広いテーマをわかりやすく記事化する。趣味は全国各地のグルメ巡りと、猫を愛でること。




































