“絶対王者”のホンダ「N-BOX」にスズキ「スペーシア」が猛追! なぜ“売れ行きの差”が縮まった? 人気の「軽スーパーハイトワゴン」ライバル争いの現状とは?
スペーシアにあってN-BOXにないものとは?
いっぽうN-BOXは、現行モデルで車両の基本性能を向上させました。ステアリングホイールを回し始めた時の反応が先代モデルよりも正確になり、車線変更時の微妙な揺り返しも抑え、乗り心地の粗さも払拭させています。
内装ではインパネの上端が70mm下がってフラットになり、前方もスッキリと見やすく改善。総合的な安全性が向上し、これはスペーシアとは異なるN-BOXを購入するメリットです。
またN-BOXでは、現行モデルになって後席の座り心地も柔軟になっています。

ただしN-BOXには失われたものもあります。外観では、フロントマスクなどのデザインが先代モデルよりもシンプルで大人しくなりました。
存在感を誇示する印象が薄れて好感度を高めたともいえますが、販売店からは「標準ボディの評判は良いものの、カスタムは物足りないとか、先代モデルの方が良かったというお客様もいらっしゃいます」という話が聞かれます。
内装も同様で、インパネの上端を低く抑えた代わりに、上質感や豪華な印象は薄れました。収納設備も、先代モデルはいろいろな場所に備えていましたが、現行モデルでは数が減っています。
またN-BOXでは、スペーシアに装着されるマルチユースフラップやスリムサーキュレーターのような装備がありません。
N-BOXの開発者は「前席の背もたれの形状などを工夫して、エアコンの冷気が後席に流れやすくしています」といいますが、ユーザーにとっては、スリムサーキュレーターのような目に見える装備が魅力となるのです。
WLTCモード燃費(2WD)は、N-BOXも一番数値の優れた標準ボディなら21.6km/Lと良好ですが、スペーシアはマイルドハイブリッドも採用されて23.9~25.1km/Lに達し、スペーシアの燃料代はN-BOXの86~90%で済みます。
そしてスペーシアのWLTCモード燃費は、高性能な「カスタムXSターボ」でも21.9km/Lです。つまりスペーシアは、ターボを装着しても、N-BOXの自然吸気エンジンよりも低燃費だということです。
今はガソリン価格が高く、2025年9月上旬時点で、レギュラーの全国平均が174円に達しますが、スペーシアであれば、燃料代を10%以上節約できるため、選ぶメリットも生じるというわけです。
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スペーシアは、日常的な使い勝手や快適性を高める各種の装備を充実させ、安全性も向上させて燃費も優れています。軽自動車のユーザーが重視する機能を高めることで、国内販売1位のN-BOXに迫る人気を得ました。
軽自動車では、価格も売れ行きに大きな影響を与える要素となっているのですが、最近は原材料費や輸送費が高騰しており、値上げする車種が増加。
特に軽自動車は、薄利多売の商品ですから、メーカー、販売会社ともに1台当たりの利益が少なく、そこに原材料費や輸送費の高騰まで加わると赤字になりかねません。
そのために軽自動車は、利益の多い普通車に比べて、切実な値上げを迫られます。
現行N-BOXの価格(消費税込み、以下同)は、2023年10月の発売時点で標準ボディが164万8900円でしたが、今は173万9100円です。
一方、スペーシアの「ハイブリッドX」の価格は、2023年11月の発売時点で170万5000円と高めでしたが、今も値上げされず同額です。
発売時点ではN-BOXの標準ボディが安かったのですが、その後の値上げで今はスペーシアが安くなりました。これらの事情により、スペーシアの売れ行きがN-BOXに迫っているというわけです。
今後はホンダも積極的なテコ入れを図り、ライバル競争は一層激しくなるでしょう。その結果、この2車種は、ますます買い得になっていくと思われます。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。










































