ホンダ「コンパクトモデル」がもはや下剋上!? 価格が安い「フィット」よりSUVの「ヴェゼル」が売れる理由とは? 意外な事実が判明!
「残価設定ローン」にカラクリがあった!
コンパクトSUVには、このように多彩な価値があり、価格の求めやすいコンパクトカーよりも販売が好調で、フィットとヴェゼルにも同様のことが当てはまります。
そして価格の高いコンパクトSUVが安価なコンパクトカーよりも好調に売れると、メーカーや販売会社にとっては、利益を高められて好都合です。そこでホンダも、フィットよりヴェゼルの販売促進に力を入れています。

これを明確に示したのが残価設定ローンの支払い額です。フィットe:HEVリュクス(264万3300円)とヴェゼルe:HEV・X(288万8600円)を比較すると、価格はヴェゼルが24万5300円高いです。
しかし両車で3年間の残価設定ローンを均等払いで利用すると、月々の返済額は、フィットが4万6700円でヴェゼルは4万7600円。価格はヴェゼルが24万5300円高いのに、月々の返済額は900円しか違いません。
ヴェゼルの価格が高いのに、月々の返済額が僅差になる理由は、両車では3年後の残価が異なるからです。残価設定ローンでは、契約時に数年後の残価(残存価値)を設定して、残価を除いた金額を分割返済します。従って残価が高ければ、月々の返済額を安く抑えられます。
3年後の残価は、フィットは新車価格の49%ですが、ヴェゼルは54%に達します。その結果、価格はヴェゼルが24万円以上高いのに、月々の返済額はフィットと僅差になりました。
残価を支払って車両を買い取る時は、ヴェゼルの安さは解消されますが、契約期間の満了時に車両を返却するならメリットが生じます。
この残価設定ローンの特徴を利用して、販売店では、契約期間満了時に別の新車に乗り替えることをユーザーに提案します。改めて残価の高い車種を紹介すれば、月々の返済額を抑えながら新車を使えるため、ユーザーは乗り替えに同意するでしょう。
そうなれば販売会社は新車が売れて、素性の分かった下取り車も入るため、中古車販売部門も活性化するというわけです。
以上のように残価設定ローンは、メーカーや販売会社にとって利用価値があり、人気車は残価を高くして優遇します。その結果、人気車と不人気車の販売格差は一層拡大していきます。
しかも今は、新車を買うユーザーの半数近くが残価設定ローンを利用しており、現金購入以外は残価設定ローンですから、ヴェゼルの買い得度が際立ち、売れ行きがフィットを超えたという事情もあります。
このほか、ホンダの軽自動車「N-BOX」の存在もフィットの売れ行きに影響しています。
ホンダN-BOXは全高が1700mmを超えるボディにスライドドアを装着した軽自動車で、先代型が登場した2017年以降、ほぼ毎年国内の年間販売ランキングの1位を獲得。
価格は、173万9100円から212万9600円ですから、フィットのガソリン車とほぼ同額です。
なおかつN-BOXは天井が高いため、軽自動車でも車内の広さはフィットと同等かそれ以上ですし、N-BOXなら後席を格納すると自転車も簡単に積めます。
ホンダの販売店からは「車両価格が200万円前後のクルマを求めるお客様の多くは、N-BOXを購入します」という話も聞かれるなど、N-BOXは軽自動車でありながら使い勝手が優れ、人気車になりました。
そうなると20年前ならフィットを選んだユーザーが、今はN-BOXを買うこともあるでしょう。ヴェゼルとN-BOXは商品の性格が異なりますが、フィットとは近いので、競争も発生するのです。
このほか販売店からは「フィットはフロントマスクのデザインが個性的で好みが分かれます」という話もあり、今後実施されるマイナーチェンジで、フィットはフロントマスクを大きく変更する可能性があります。
そうなると売れ行きが回復して、フィットの登録台数がヴェゼルを超えるかもしれません。今後のフィットに期待しましょう。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。







































