レースマシン「NSX GT3」のホイールデザインは軽のS660が出発点!?
スーパーGTでは、ホイールについては定められた規格をクリアしていれば、各ホイールメーカーがレースに参入することができます。つまりタイヤと同じくレーシングカーを支えるホイールも、メーカー同士の闘いが静かに繰り広げられているのです。
1mm以上ずれがあるとレースでは使えないアルミホイール
スーパーGTのGT300クラスに参戦しているFIA-GT3車輌は、市販されるスーパースポーツをベースに作られたレーシングカーです。ホンダもFIA(世界自動車連盟)の公認を受けて、「NSX GT3」を制作しています。
GT3車輛のルールは非常に厳密に定められており、たとえばアルミホイールさえもが統一規格になっています。よって世界のGT3車輌を使ったレースでは、公認されたメーカーのアルミホイールしか使うことができません。
しかしスーパーGTでは、このアルミホイールについては定められた規格をクリアしていれば、各ホイールメーカーがレースに参入することができます。つまりタイヤと同じくレーシングカーを支えるアルミホイールも、メーカー同士の闘いが静かに繰り広げられているのです。
まずこの「NSX GT3」に装着されているアルミホイールデザインの出発点は、ホンダアクセスのS660用8本スポークのアルミホイールでした。これをまずGT500クラスの「NSX GT」に採用し、今年デビューした「NSX GT3」と市販車「NSX」用の純正アクセサリーアルミホイールにも踏襲されているといいます。
そこで、「♯34 Modulo Drago CORSE NSX GT3」のアルミホイールをホンダアクセスと共に制作するエンケイ株式会社 技術開発統括本部の田中真志さんにお話を聞きました。
「レーシングホイールの開発は、GT500用ホイールで培った技術を、GT3用規格に落とし込むところから始まりました。NSX用モデューロホイールのデザインを反映させながら、レースで必要な性能が出せるように最適化したのがこのアルミホイールです。
NSX GT3用のFIA公認アルミホイールはOZ社が担当。スーパーGTではそのサイズ(フロント18×12J/リア18×13J)と重量(車種ごとに細かく設定されている)に合わせてエンケイが制作します。
またレースに使うアルミホイールは、1本1本全てGTアソシエーション(スーパーGTの運営会社)によって厳密に計測されて(なんとその公差は±1mmといいます)、これに合格したアルミホイールだけがレースで使うことを許されます」
アルミホイールで重量とサイズが定められている場合、性能差はどんなところで現れるのでしょうか?
「我々の考え方としては、剛性です。タイヤのグリップを最大限発揮させるために必要な剛性を確保して、必要ない部分は落として行く。そのデザインが味付けになると思います」
そのためには高度な設計能力が問われ、ここが腕の見せ所となっているようです。
「たとえばこのアルミホイールも、正面から見ると非常に細く見えますが、横から見るとスポークにはかなりの厚みがあるのがわかると思います」
そう言われてアルミホイールを見ると、縦断面が大きく取られたスポークは、中央部分が削られ、縁の部分が残されているなど、複雑な形状をしていました。またアルミホイールの内側には、アウターリム付近に段差(リブ)が設けられていました。
「もちろん見た目にもこだわっています。このアルミホイールの表面にはアルマイト処理が施されていて、非常に薄くて強い透明な皮膜が作られているんですが、これが見た目にも美しく、耐腐食性や傷にも強いディッシュ面を実現しているんです」
ちなみにこの酸化皮膜を作るためには、ベースとなるホイールの品質が問われます。透明度の高い皮膜はいわばアルミの地肌をそのままさらすことと等しいため、鍛造過程や切削過程で傷が入ると、そのまま残ってしまうのです。
いわばスーパーGTでチームに納入されるアルミホイールは、自社による厳しい検品と、GTアソシエーションによる検査をクリアしたエリート品と言えるのです。
【了】
Writer: 山田弘樹(モータージャーナリスト)
自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。レース活動の経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆中。並行してスーパーGTなどのレースレポートや、ドライビングスクールでの講師も行う。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。