謎の「“サビだらけ”セダン」公開! 長年“草むら放置”でフロアは抜け落ち・腐食だらけの状態に… なぜ展示? 実は「日本の自動車史」として貴重な“遺産”だった

毎年、“超”がいくつもつくような貴重・希少なクルマが展示される「ノスタルジック2デイズ」。今年も、林コレクションからとびきりの希少車「オオタPA型」が持ち込まれました。どのようなクルマなのでしょうか。

草むらから発見された貴重な「オオタ」のセダン

 2025年2月22日、23日と2日間にわたり、パシフィコ横浜(横浜市西区)で開催されたクラシックカーの祭典「ノスタルジック2デイズ」に貴重なオオタ乗用車が出展されていました。

会場でひと際目立っていた幻のザビだらけセダン!
会場でひと際目立っていた幻のザビだらけセダン!

 続々と新車が発表され、生産されている日本。長かれ短かかれ、役目を終えたクルマは廃車されてしまうのが宿命です。そのため、時間を経れば経るほど古いクルマの残る率は減少していきます。それが華やかなスポーツカーや、人気車種じゃない場合はなおさらです。

 特に1940〜1950年代頃の国産車が普及する黎明期、しかもトヨタや日産などの大手メーカー以外のクルマが生き残っているとなると、もはや奇跡に近いのです。

 そんな貴重な黎明期のクルマたちを多数所有しているのが、林 克己氏です。

 戦前の「ダットサン17型ロードスター」や、戦後にごく少数生産された大衆車「フライングフェザー」、「フジキャビン」など、極めて希少なクルマを多数集めています。

 一時は博物館を設立する構想もありましたが、現在では「林コレクション」として、知る人ぞ知る存在となっています。

 ノスタルジック2デイズでは毎年、林コレクションから“超”がいくつもつくほど珍しいクルマが展示されますが、今回持ち込まれたのが「オオタ PA型」でした。

 オオタは、太田祐雄氏が創立し、1933年からトラックと乗用車の生産を開始したメーカーです。戦前の日本では「ダットサン」と並ぶ日本を代表する乗用車メーカーでした。

 1935年に高速機関工業、1952年にはオオタ自動車工業へ社名を変更したのち、1957年に日本内燃機製造(現在の日産工機の前身)と合併し、オオタブランドは消滅。それから68年が経ち、今や幻のメーカーと呼んでも過言ではありません。

 第二次世界大戦後は、他社同様に戦前設計のトラックを再生産。1948年には750ccエンジンを積んだ「PA型」を発表しました。当初はお手製の簡素なボディでしたが、年々改良が重ねられ、工作精度も向上。しかし、乗用車の生産台数は月に数十台程度と少量でした。

 その中で、900ccを載せた「PB型」や、のちに日産に合併されたプリンスの前身・東京電気自動車が作った「たまジュニア」の車体を流用した「PC型」、外国車を模倣した「PF型」「PX型」、京都の相互タクシーに納入された「PK2型」など、10年ほどの短い期間に多様なモデルを生み出していたのは興味深いポイントです。

 1954年まで作られたPA型は時期によって外観が異なります。末期の「PA5」「PA6」がタクシー需要向けに4ドア仕様で作られた以外は、すべて2ドアセダンでした。

 今回展示されたのは1952年型の「PA4」で、日本に残るオオタの2ドアセダンとしては最後の1台と思われます。

 車体は長年の風雨にさらされ、元の色がわからないほど錆び付き、各所が腐食。しかし、林氏は「ここまで形が残っていれば直せます」と話します。

 フロアは抜け落ちているものの、シャシはしっかり原型をとどめ、灯火類やメーター、スイッチ類も残存。欠品が極めて少ない状態に、林氏自身も驚いたとのこと。展示のため外されているドアも、実際は保管されています。

 戦後の日本が復興を目指す中で、オオタのようなメーカーが奮起し、PA型のようなクルマが生産・発売され、それを購入する人がいたという事実は、世に伝えるべき歴史の一部です。今の自動車文化を作った一翼であることに間違いはありません。

 しかし、自動車大国であるはずの日本では、クルマは単なる消費財として受け止められ、文化遺産としてあまり認められていないのも事実。PA型はメジャーで有名な旧車ではありませんが、だからこそ貴重な文化遺産だといえます。

 そして、数十年前からこのような貴重なモデルに着目し、収集を続けてきた林氏の情熱には敬意を評します。

 林氏は筆者(遠藤イヅル)の取材のなかで、「このクルマは長野県の山の中にありました。見つけたものの、引き取るか悩みました。仲間に『これを直せるのは林さんしかいない』と言われ、決意しました。

 しかし置いてあった場所は、草が生い茂り、足場も悪く、引き上げて持ってくるのも苦労しました。

 こうして展示できたことは、私以上にオオタが喜んでいるのではないでしょうか」と語りました。

 今後、オオタPA型はどのようにレストアされていくのでしょうか。完成を楽しみに待ちたいと思います。

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Writer: 遠藤イヅル

1971年生まれ。自動車・鉄道系イラストレーター・ライター。雑誌、WEB媒体でイラストや記事の連載を多く持ち、コピックマーカーで描くアナログイラスト、実用車や商用車・中古車、知られざるクルマの記事を得意とする。

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1件のコメント

  1. 昔、私が小学生の頃、父が大田の乗用車にのっていました。1960年頃だと思います。家にはステアリングとエンブレムだけが今ても残っています。

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