「小型ミニバン」なぜ「シエンタ&フリード」しか存在しない? 日産は「キューブ“ミニバン”」作らないの? 全長4.4m以下のミニバンに他社が参入しないワケとは
アルヴェル一強の「Lサイズミニバン」はどうなのか?
コンパクトミニバンは2車種しかありませんが、Lサイズミニバンには、トヨタ「アルファード/ヴェルファイア」、日産「エルグランド」、ホンダ「オデッセイ」、レクサス「LM」があり、車種は相応にそろっています。
しかし、売れ行きはアルファード/ヴェルファイアの圧勝です。
2024年の1か月平均登録台数は、アルファードが約6600台、ヴェルファイアは約2800台でしたが、エルグランドは約120台です。オデッセイは約1000台でしたが、LMは約480台に留まります。
つまりLサイズミニバン全体の約60%をアルファードが占めており、姉妹車のヴェルファイアも加えると85%に達します。それ以外のLサイズミニバンは、全車を合計してもカテゴリー全体の15%です。

アルファード/ヴェルファイアのような人気車種があると、その他の車種は苦戦するのはコンパクトミニバンと同様ですが、最近は状況が変わっています。独特の豪華さにより、中国などの海外市場でも、日本のLサイズミニバンが好まれているからです。
そこで現時点では売れ行きが少ないものの、オデッセイは一度国内生産車を廃止した後で、中国製の輸入を開始しました。
日産も以前はエルグランドの新車開発を終了して、2010年に登場した現行型を細々と売っていましたが、改めて新型の開発を再開したようです。以前はミニバンとは無縁だったレクサスも、LMを2代目モデルから国内導入しています。
なおLサイズミニバンには、ミドル/コンパクトミニバンとは異なるニーズもあります。それは法人の重役などが使う社用車です。
かつて日産にはプレジデントやシーマ、ホンダにもレジェンドがありましたが、今は廃止され、その結果、エルグランドやオデッセイを社用車に使う法人が見られます。
社用車は乗り替えや各種の点検を定期的に行うため、販売会社にとって重要な顧客です。そのために発売から14年以上を経過したエルグランドを今でも売り続けたり、オデッセイの輸入販売を再開したのです。
しかも販売店では「法人のお客様が重役の使う社用車のメーカーを変更すると、営業車も含めて、すべての車両のメーカーが変わる場合もあります」といいます。
つまり重役の使うクルマが日産のエルグランドからトヨタのアルファードに変わると、荷物を運搬する「キャラバン」や「AD」まで、トヨタの「ハイエース」や「プロボックス」に置き換わることになりかねません。
また日産の販売店では「エルグランドのお客様の乗り替えを考えて、セレナに最上級の『e-POWERルキシオン』を用意しましたが、狙い通りになりませんでした」といいます。
ホンダもステップワゴンに上級の「スパーダプレミアムライン」を設定しましたが、販売店によると「オデッセイからの乗り替えは少ない」とのことです。
そうなるとLサイズミニバンでは、今後も新車開発が進められ、アルファード/ヴェルファイアに対抗できる新型車が登場する可能性もあります。
逆に薄利多売のコンパクトミニバンは、今までと同じく、フリードとシエンタで少数精鋭のラインナップが続くでしょう。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
ソリオの3列なら出せそうな気がする