マツダ新型「“3列”SUV」発表! 3.3リッター「直6」採用の「最上級モデル」! 乗ってわかった「CX-80」の実力とは
CX-60と比べてどう進化したのか
その走りはどうか。CX-60はSUVを感じさせない一体感のある走りの一方で、快適性に大きな課題がありました。
そこでCX-80は「乗員全員が快適な移動」をテーマにセットアップを実施。具体的にはリアスタビライザーを外し、リアのバネレートを下げた上で全体のバランスを取ったと言います。
その効果は路面からの入力はCX-60と比べるとカドが丸くなった事で感じますが、逆に入力がなかなか減衰されずバネ上が常に落ち着かない印象も。
これはディーゼルが最も顕著で、車両重量が重い(床下にバッテリー搭載)ディーゼルマイルドハイブリッドは幾分落ち着きがあるように感じました。
その中でも2列目はフロントタイヤへの入力が波のようにうねりながら伝わるので落ち着かない揺れと振動が常に伝わってきます。
これは1列目や3列目では感じなかった現象が。開発陣に伝えると「スライド機構付きが故に振動が伝わりやすい」との事でしたが、2列目はCX-80にとっては大事な席である事を考えるとシートフレームの剛性向上や減衰機構追加など、何らかの対策は必要でしょう。
静粛性はエンジンからの音は上手に抑えられていますが、それが故に相対的にロードノイズが気になってしまいます。
特に上級グレードは内装の質感とのギャップが大きいので、より入念な対策が必要でしょう。更にシート空調の作動音は会話明瞭度を下げてしまうレベルの大きさ、これも何とかしたい所です。
ハンドリングはどうでしょうか。ステアリングアシストがCX-60より軽めの設定になったのは朗報ですが、ロングホイールベース化されたのにも関わらず直進安定性は今一つで、特にステアリングセンター付近の座りの悪さと落ち着きの無さはCX-60以上。ビシーッと矢のように走る感じはしません。
そのため、高速道路では運転支援(CTS:クルージング&トラフィックサポート)を頼ったほうが色々な意味でストレスフリーです。
コーナリング時はCX-60譲りの良さを実感するも、快適性を重視した弊害も出ているような気がしました。
スバリ言うと、CX-60で感じたノーズの素直な入り方、前後バランスの良さ、駆動のかかり方など、縦置きFRレイアウトの旨味が薄れてしまっているのです。
1つはステアリングの切り始めの応答が悪い上にコーナリング時にフロントに荷重を上手に乗せにくい事です。
前後の重量バランスは良いはずですが、走らせているとドライバーは常に前後バランスが後ろ寄りに感じてしまうのです。
恐らく、リアが柔らかすぎてコーナリング中に倒れ込みが起き、その結果フロントの接地を悪化させているのでしょう。
もう1つはコーナリングの一連の流れに連続性が無い事です。確かにステアリング“切る”方向は自然で滑らかなのですが、ステアリング“戻す”方向は抵抗が強くてなかなか直進状態に戻らず。残念ながら開発陣が目指したニュートラルな操縦特性とは言えません。これはCX-60でも気になっていた部分ですが、CX-80はより顕著に感じました。
良く言えば、「多人数乗車らしい“穏やか”で“安定方向”の走り」と言えますが、個人的にはCX-60の「SUVである事を感じさせないハンドリング」から「SUVを感じてしまうハンドリング」に戻ってしまったのは残念。
このように走りに関しては「快適性を気にし過ぎた結果、本来の良さも薄れてしまった」と言う厳しい評価になってしまいます。
仮に電子制御ダンパーなどの採用で解決する所もあるかもしれませんが、個人的にはマツダが目指す理想の走りの実現には、基本素性(サスペンションジオメトリーなど)に何らかのメスを入れる必要もある気がしています。
総じて言うと、“マツダらしい”クルマづくりが色濃く反映された3列モデルである事、巷の3列モデルとは異なる魅力を備えている事は間違いありませんが、現時点ではCX-60に対して「三歩進んで二歩下がる」と言った印象です。
とは言え、基本素性の良さは間違いなく世界トップレベルなので、今後の進化・熟成に期待したい所です。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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