トヨタが「スゴい施設」の全容を初公開! 「もっといいクルマづくり」の拠点、込められた想いは?
豊田章男氏が語るニュルブルクリンクとは? そしてTTCSとは
豊田氏も成瀬氏と変わらないくらいニュルの重要性を知る一人です。
こちらも筆者が以前、豊田氏にニュルについてインタビューした時の一部を紹介したいと思います。
―― 章男さんは「もっといいクルマ作り」を経営のど真ん中に掲げていますが、その考え方の原点はやはりニュルでの活動ですか?
豊田 成瀬さんに「あなたみたいに運転の仕方も知らない人に、ああだ、こうだと言われてもたまりません。最低でもクルマの運転の仕方は身につけてください」とハッキリ言われてから、10年近く運転トレーニングをしてきました。
私にそのような感性を磨かせてくれたおかげで、トヨタでの社長業のやり方も全く変わりました。リコール問題での公聴会、社長になってからの方針も、ニュルでの経験があったからこそ明確に言えたと思います。
―― つまり、経営者・豊田章男の原点はニュルにあると言うわけですか?
豊田 そうですね。2000年にニュルでのトレーニングを始めました。当時は確か1周12分くらいのペースでしたが、「果たして生きて帰ってこれるのか?」と絶えず恐怖と戦っていたのを思い出します。
僕は40を超えてからのトレーニング、50を過ぎてからの挑戦でしたが、「クルマが好き」、「クルマの運転がちょっと上手」と言う気持ちだけでここを走ると、ニュルの神様に怒られると思います。それくらい厳しい道だと思います。
―― ニュルではドライバーはもちろん、クルマも過酷コースとして有名です。
豊田 他の道ではごまかせたとしてもニュルではダメ。だからここで鍛える必要があります。ここで鍛えるとクルマが壊れる、壊れるから人も鍛えられるといい循環が生まれます。
LFAの時に痛感しましたが、テストコースで3年間開発して出てこなかった不具合が、ニュルに来ると30分で出ました。最初は24時間を走り切る事すらできませんでしたが、今は違います。
―― 成瀬さんに代わり、今は章男さんがマスタードライバーとして皆を引っ張っています。
豊田 今は当時のメンバーに加えて新たな仲間も加わり、もっといいクルマ作りを進めています。これまでは成瀬さんのテールライトを追いかけてきましたが、すでに成瀬さんがやってきたことの前例を超えています。
でも、今後も続けていく必要があります。継続しているから正解になっていくんだと思います。そういう意味では、私の中では今も成瀬さんはずっと生き続けています。
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このようにニュルはトヨタにとって重要な開発ステージですが、日本からフランクフルトまで空路で片道13-14時間、更にフランクフルトからニュルまで陸路で2時間と、頻繁に通える場所ではありません。
トヨタ車の中でもニュルで鍛えられたモデルが限定的だったのは、そのような背景もあったと思います。
そこで豊田氏は「ニュルの一部でも下山で体験できるようになれば、もっといいクルマづくりに大きな影響を与えることができる」と考えたわけです。
実はそんな考えは1980年代にもありました。
初代セルシオは日常領域からアウトバーン領域まで、超一級の静粛性と快適性、そして欧州車に負けない走行性能が開発目標でしたが、それを実現できたのは1987年に完成した士別試験場の高速周回路(第1周回路)が大きく影響しました。
当時セルシオの広告には、「まず北海道の原野にアウトバーンを作りました」と記載されていましたが、言うなれば今回のTTCSは「愛知県の山間部にニュルを作りました」でしょう。
更に豊田氏は続けます。
「30年前の構想当初は『もっといいクルマづくり』と言うキーワードはありませんでしたが、私はニュルの走行を繰り返し行なっていました。
その時『ニュルでしかできない事が、なぜ、日本でできないのか?』と思いましたが、その答えの一つがこのTTCSです。
これから若い世代含めて現役の人がどう活用していくのか、つまりゴールではなくスタートです」
ただ、筆者が一つ気になったのは「TTCSで色々なテストができるようになった事で、今後トヨタはニュルには行かなくなるのか?」と言う所です。
そんな疑問を豊田氏にぶつけるとこのように答えてくれました。
「下山で解ってニュルで解らない事、逆にニュルで解って下山で解らない事がこれからたくさん出てくると思います。
だからこそ、どちらの強みも活かして、もっといいクルマづくりを続ける必要があります。
ただ、間違いない事は『厳しい道がもっといいクルマづくりに繋がる』と言う事でしょう。
ちなみにニュルは先週走ってきましたが、自分の成長を確認できた一方で新たな課題も見つかりました。
だから、走れるうちはニュルに行き続けます。そして、またニュル24時間耐久レースに出たいと思っています」
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TTCSによって、もっといいクルマづくりは間違いなく加速していくでしょう。
そして、今後登場するであろう「下山で鍛えられたクルマ」たちにも、期待大です。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
“TPS”が会社を鍛え、人を鍛え、「ムダ排除」の蘇生の法則から無限的創造の利益を生む。
トヨタ後共に歩む生涯現役のトヨタOBのTPS指導者です。
「ニュル越え」で、世界中から試走に来るとかになったらイイね