なぜ40年前の「AE86(ハチロク)」が今も人気? 1000万円の個体も! でも昔は「タダであげてた」ってマジか!? 事情通に聞いてみた

S13「シルビア」登場で“走り屋人気”の勢力図が動いた!?

 菅原氏は、AE86の扱いやすさについて評する一方で、乗り手を選ぶクルマでもあったと話します。

「ハチロクは扱いやすい一方、エンジンが非力なので、速く走ろうと思ったら『できるだけ高回転をキープしてブレーキを踏まない』『誰よりも長くアクセルを踏み続ける、誰よりも早くブレーキは踏まない』という走りをしないと速く走れないのです。

 つまり『誰でも速く走れるクルマ』ではなく、『乗り手しだいで速く走らせることもできるクルマ』でした。

 ハチロクは『ドライバーを育てるクルマ』と言えました」

「レビン/トレノ」のなかでも「 GTV」は硬派な走り屋御用達グレードでした
「レビン/トレノ」のなかでも「 GTV」は硬派な走り屋御用達グレードでした

 後輪駆動で安価なAE86は、1980年代後半から1990年代初頭には若いドライバーが腕を磨く手ごろな中古車として支持を集めます。

「1.8リッター+ターボ+後輪駆動の日産『シルビア(5代目/S13型)』が1988年に発売されると、やがてボロボロのAE86が先輩から後輩に破格値で譲られはじめました。

 私のハチロクも、先輩から譲ってもらったクルマでした。

 当時はすでにAE86の後継モデル『AE92』は前輪駆動化され、(後輪駆動の)三菱 『ランサーターボ』も生産終了。そんな状況で、若い世代が走りを楽しむには、安価で中古の台数も多いAE86は最適なクルマだったのです」(菅原氏)

 そんなハチロクが改めて注目され始めたのは、やはり人気コミック「頭文字D」の連載が始まってからでしょう。

 主人公が乗るAE86(白/黒ツートーンカラー、3ドアの「トレノ GT-APEX」)が、はるかに高性能なスポーツモデルを打ち負かすストーリーとして、今も人気の作品です。

「ハチロクは『自分で乗りこなす楽しみ=人車一体感』を与えてくれるクルマです。

 現代のクルマはパワーがありますが、電子制御されていて、どうしても『クルマに乗らされている感』があります。車体も大きく、車重も重いです。

 しかしハチロクは軽量かつコンパクトなのも魅力ですね。それが現在でも人気を保つ大きな理由なのではないでしょうか」

 なお当時、筆者は某大学の自動車部に在籍し、ジムカーナなどの競技を行っていたのですが、AE86以外ではホンダ「シビック(3代目/通称“ワンダーシビック”)」、ホンダ「バラードスポーツCR-X」といった、1.5リッターから1.6リッタークラスで、AE86同様に比較的安価に流通していたスポーツモデルが多く愛用されていました。

 これらの中古車も現在では高値安定で推移していますが、その理由もAE86と同じなのかもしれません。

※ ※ ※

 最後に菅原氏は、こんな面白いことを教えてくれました。

「ちなみに当時、走り屋のハチロクの定番といえば、『レビンのGTV』。

 白黒ツートンの今で言う“パンダトレノ”『トレノGT-APEX』は、走り屋からは“デートカー”と見なされていたんですよ(笑)」

 GT-APEXは、デジタルメーターやパワーステアリングが備わる上級グレードだったのに対し、GTVやGTはパワステすら備わらない硬派な仕様でした。

 しかも当時の走り屋は流通量の多いレビンを好んで乗っていたこともあって、リトラが備わりスマートなスタイルのトレノ GT-APEXとなると、ちょっと軟派なイメージがあったかもしれません。

 頭文字D以降はトレノ/3ドアモデルの人気も高まりましたが、現在との感覚の違いに改めて驚かされます。

[※編集部注記:誤記があったため2024年4月5日に本文の一部を修正しました]

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Writer: 遠藤イヅル

1971年生まれ。自動車・鉄道系イラストレーター・ライター。雑誌、WEB媒体でイラストや記事の連載を多く持ち、コピックマーカーで描くアナログイラスト、実用車や商用車・中古車、知られざるクルマの記事を得意とする。

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