なぜホンダ「N-BOX」売れ続ける? 強豪多い「人気ジャンル」なのに… 「日本一売れてる軽」称号キープの理由とは

なぜホンダ「N-BOX」は売れ続けるのでしょうか。ライバル車がひしめく「軽スーパーハイトワゴン」ジャンルで存在感を示す理由を探ります。

ライバル多し「N-BOX」 ずっと売れ続けるワケ

 フルモデルチェンジして3代目となったホンダ 新型「N-BOX」が売れまくっています。
 
 2023年10月の新車登録台数(軽自動車なので正確には「届出台数」)は2万2943台と、軽自動車で2位(1万5795台)のダイハツ「タント」に大差をつけてぶっちぎりのトップでした。

なぜ「N-BOX」は売れ続けるのか
なぜ「N-BOX」は売れ続けるのか

 しかし実は、いわゆる「新車効果」ではありません。

 フルモデルチェンジ前となる9月も(もうすぐ旧モデルになるにもかかわらず)2万686台を販売して大差でトップを獲得。登録車(普通車)を含めてもダントツで、とにかく爆売れなのです。

 となると気になるのは「どうしてN-BOXは売れるのか?」ということ。

 自動車メディア的には「スバリこう!」というべきなのですが、結論からいえば「明確に断言するのはなかなか難しい」というのが答え。なぜなら、ライバル(タントやスズキ「スペーシア」)に対して“明確”に差をつけて優れている部分がありそうで実はないからです。

 たとえば室内の広さ(前後席間隔)は新型N-BOXがトップですが、ライバルとの差は「僅差」といえるもので“どれも十分な広さ”を持っています。

 僅差を理由にN-BOXを選ぶ価値があるかといえば、正直なところ「そこまででの差ではないかな」という印象。実際に比べると、多くの人がそう感じるのではないでしょうか。

 いっぽうで装備を見ると、新型N-BOXだけに備わりライバルに圧倒的な魅力に見える機能があるかといえばそれも難しいところです。

 高速道路で運転の疲労を減らすACC(アダプティブクルーズコントロール)を全車に備えていたり、チップアップできる後席座面といったN-BOXの独自装備もあります。

 その一方で、天井に備えるシーリングファンや、車両周囲を見渡せる全方位モニターなど、N-BOXには設定がない装備もライバルにはあります。また、N-BOXに関して「新型になったのにハイブリッドではない」と評価する人もいるくらいです。

 では、カタログを見てわかりやすい指標のひとつである、燃費はどうなのでしょうか。

 新型N-BOXの燃費(ここでは自然吸気エンジンを搭載するFFモデルのWLTCモード値)は21.5~21.6km/Lですが、タントは22.7km/L。

 さらに全車ハイブリッドとなった新型スペーシアは、驚きの23.9~25.1km/L。こうして比べてみるとN-BOXが特別優れているわけではありません。というか、どれも水準が高くて驚きます。

 では、走りはどうでしょうか。

 これは新型N-BOXに軍配が上がります。特に差がわかるのが、いずれのライバルでも売れ筋になっている自然吸気エンジン車。

 N-BOXの自然吸気エンジンは最高出力58ps、最大トルク65Nmとライバルに比べてスペックで優っているのですが、実際に乗ってみるとやはりライバルよりも軽快に速度を増していくうえに加速が滑らかだと実感します。

 それも、アクセルをいっぱいに踏むような状況でなく、日常的な緩い加速や上り坂で実感できるものです。

 加えて操縦安定性も、軽自動車のレベルを超えた安心感があるのは大きなメリットです。

 つまり装備や数値といったカタログスペックでわかることではなく、体感的な部分で新型N-BOXはリードしているといっていいでしょう。

 とはいえ、軽自動車を買う人で動的性能にこだわる人、そこを重視してクルマを選ぶ人は少ないかもしれませんが、これも事実だと思います。

 ただ、一度N-BOXを運転すると「よくわからないけれど、安心して運転できる」と漠然と感じる人は多いのかもしれませんね。ついでに言えば、乗り心地も良好です。

 あとはスタイリング。これは完全に「好み」としかいえませんが、N-BOXのシンプルなスタイリングは安っぽさがなく、年配の人が乗っても違和感ないと感じるかもしれません。

 軽自動車ハイトワゴンは強豪ライバル同士が競い合う激戦区であり、切磋琢磨することで完成度が上がっていることはいうまでもありません。

 つまり全体のレベルが高いといっていいでしょう。そのなかでN-BOXがライバルに対し大差で勝っている点を見つけるのは難しいですが、装備とカタログ燃費を除けば「少しずつリードしている」のがわかります。

 というわけで、「N-BOXはなぜ売れるのか?」に対する結論は、「特別凄い部分があるわけではないけれど、いくつかの分野でちょっといい部分があり、それがトータルでの魅力になっている」ということになるのだと考えられます。

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Writer: 工藤貴宏

1976年長野県生まれ。自動車雑誌編集部や編集プロダクションを経てフリーの自動車ライターとして独立。新車紹介、使い勝手やバイヤーズガイドを中心に雑誌やWEBに寄稿している。執筆で心掛けているのは「そのクルマは誰を幸せにするのか?」だ。現在の愛車はマツダ CX-60/ホンダ S660。

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