様々な「顔」を持つトヨタ・豊田章男氏…ラリー・フィンランドで見せた「立場(顔)の切り替え」が凄かった

様々な顔で楽しんだフィンランドラリー

 8月6日、最終日となるデイ4です。結果は皆さんご存じの通り、エルフィン・エバンス/スコットマーティン組が2年ぶり2回目の優勝、そして勝田貴元/アーロン・ジョンストンが昨年のラリージャパン以来となる総合3位を獲得。そして、ヤリ-マティ・ラトバラ/ユホ・ハンニネン組は総合5位と言う結果。

 ポディウムには豊田代表代行も登壇し、フィンランドに“君が代”が。そして、シャンパンファイトでは、完全にドライバーたちの餌食に。

 ただ、その表情はいつも以上に晴れやかで嬉しそうでした。

 豊田代表代行は、その後FIAの記者会見を受けた後、我々にフィンランドラリーの総括をしてくれました。

―― ポディウムでのシャンパンファイトはどんな気持ちでしたか?

 豊田:これは勝たなければできない事ですから、このような事ができる環境を作ってくれたチームに感謝です。

 事前に「目に入らなきゃいいな」と思っていましたが、ダメでした(笑)。

 そこから何も見えずに掛けられるだけ……。長い間経験していなかったので、ちょっと“守り”でしたね。

―― エルフィン選手が1位、貴元選手が3位、ラリージャパンに向けてどんな意味を持つと思われますか?

 豊田:貴元はレギュラードライバーとしてポイントが加算されます。

 プレッシャーの中で結果を残すと言う1年、ここまではちょっとでしたがタイムは上がっています。つまり「挑戦している証拠だな」と。

 でもやはり結果が欲しいと思っていた時の3位、非常に嬉しいです。

 デイ2の午後くらいから、彼のインタビューの時の顔つき、肩の力の抜け方が変わりました。

 ラッピ、カッレがいなくなってから、スンニネンと共にフィンランドを盛り上げた2人だったと思う。

 そんな中、コンマ秒を争う中での3位、今後の彼の成長の中でターニングポイントとなったと思います。

―― パワーステージの後、貴元選手の所にスンニネン選手が来て、「いい勝負ができた」と称え合っていました。

 豊田:Rally1のトップドライバーは競技が終わるとお互いを称え合う、これは凄く美しいしいい事だと思っています。

 そこに貴元が入った事を多くのラリーファン、モータースポーツファンに知ってほしいですね。

ラリー・フィンランドで豊田章男会長(左)と勝田貴元選手(右)
ラリー・フィンランドで豊田章男会長(左)と勝田貴元選手(右)

―― 今回は調印式と言う歴史に残るアナウンスメントからラリーウィークに入り、結果も残した。振り返って感じる事は?

 豊田:調印式は、世の中に対して「トヨタと言う会社がラリー界に対して、ロングタームコミットメントをした」と言う証明です。

 トヨタは何を目的にモータースポーツをやっているのか? それは人材育成ともっといいクルマづくりですが、そこに一歩進み拠点を設けることで、持続的かつ自立的にやる一歩が始まった……と言うわけです。

―― 代表代行としての仕事はどうでしたか?

 豊田:そもそも「プリンシパルって何するの?」、「何が仕事なの?」からでした。

 朝のチームミーティングに出て、始めは「皆の動きを見よう」と。

 とにかく僕がプリンシパルをすることで「誰かの邪魔をしたくない」と言うのが最優先項目でした。じっと見ながら、「何か役立つことはないか?」と応援団長のようになった。

 結果、上手くいき時を重ねるごとに笑顔とリラックス度が増え、相談具合も増えてきたので良かったなと。

―― 心配はありましたか?

 豊田:自分の中には「そもそも受け入れてもらえるか?」という緊張感がありました。

 いちお肩書があるので、忖度して受け入れくれるでしょうが、僕は解ってしまいます。そうじゃない気持ちになれたのは嬉しいし、そういうチームにしてくれたラトバラやメンバーに感謝しかないです。

 家庭的かつプロフェッショナルで全員が負け嫌い、皆で高め合う、皆で喜びあう、そして一人が何役でもこなす。

 そんないいチームなっていると実感しました。そういう意味では、彼らの仕事を間近で見れたのは本当に良かったです。

―― ラリージャパンに向けても楽しみです。

 豊田:ラトバラがHEVのマシンに初めて乗ったと言うことは、今後代表として的確なアドバイスができるでしょう。この後のシーズンをご注目いただきたいと思います。

※ ※ ※

 と言うわけで、ラリー・フィンランドで豊田章男氏が何を思い、何を感じ、行動してきたが解っていただけたと思いますが、全てに共通しているのは「自分以外の誰かのため」、つまり「Youの視点」で行なわれている事です。

 これはトヨタの経営理念でもある「幸せの量産」、そしてクルマを走らせる550万人に対する「ジャパンLOVE」にも繋がっています。

 豊田氏は会長になった今も様々な肩書・顔を持っていますが、それらを引き受ける根底は、ここにあると思っています。

 ただ、今回のフィンランドラリーには延長戦がありました。「モリゾウの役目は週明け」と言っていたように、ラリー翌日、ドライバーを交えて運転トレーニングが行なわれました。

 モリゾウ選手はGRヤリスRally1/Rally2はもちろん、何とラトバラ氏が所有するセリカGT-FOUR(ST165)にも試乗。

 クルマ大好き/運転大好きは、会長になっても全く変わらないようです。

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Writer: 山本シンヤ

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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