なぜ「インテグラ」復活? スポーティさ強調した新型モデルがアメリカでウケる意外な理由とは
きっかけは映画『ワイルドスピード』!?
インテグラがアメリカで復活したのは一体なぜなのでしょうか。そこには、あの『ワイルドスピード』にも通じる、深い訳があるのです。
スポーティ性に尖ったインテグラのターゲットユーザーは、ジェネレーションXと呼ばれる1960年代中盤から1970年代生まれの現在の50代や、その次の世代であるジェネレーションY(主に40代)のほか、それらの世代から影響を受けた、より若い人たちを含みます。
このジェネレーションXとジェネレーションYは、1990年代末から2000年代初頭にアメリカで発生した「あの社会現象」をリアルタイムで体感しており、そうした経験から「インテグラへの憧れ」が強いといえるでしょう。
あの社会現象とは、当時の日本の自動車メディアでは「スポコン」と呼ばれた、スポーツコンパクトカーのブームのことです。
1980年代から1990年代にかけてのホンダ「シビック」やアキュラ「インテグラ」が主流で、そこに一部事業者が日本から輸入した日産「スカイラインGT-R(R32、R33、R34)」などが絡んできました。
こうしたブームを発端として生まれたのが、映画『ザ・ファスト・アンド・ザ・フューリアス』、つまり、日本でいう『ワイルドスピード』です。
筆者(桃田健史)は当時、さまざまな立場で同第一作の撮影現場に立ち会っていますが、まさか同シリーズがあれから20年以上も続く人気作品に大化けするとは、まったく予想できませんでした。
一方で、ワイルドスピードの第一作を観た日本のユーザーは「あまりにもアングラ(アンダーグラウンド)系の世界を強調し過ぎるのでは」と、映画としての演出の度合が強いようなイメージを持ったかもしれません。
ところが、映画で描かれた世界はかなりリアルワールドであり、当時の社会現象をドキュメンタリータッチで捉えたといえます。ここに、インテグラが深く絡んでいるのです。
このような社会現象の原点は、南カリフォルニアの主にアジア系アメリカ人の20代若者が、親から払下げられたシビックやインテグラを使って始めた仲間内での遊びです。
公道で違法なドラッグレースに興じたり、日本の自動車雑誌などを参考にしたドレスアップなどを仲間内で見せ合うといったことから始まりました。
それが、アジア系マフィアなどが主体となり、アルコール飲料を提供したり、また日本の「東京オートサロン」などを参考にさらに過激なコスチュームとした若いコンパニオンを採用する「ショー」と呼ばれる有料イベントに、一部では未成年者も含めて集客するようになります。
また、公道ドラッグレースから派生した、独立したレース主催者によるレース場でのドラッグレースが始まりますが、参加者のなかには“かなり尖った集団”もいて、レース場周辺のホテルで集団どうしが銃を乱射するといった緊急事態も発生しました。
まさに『ワイルドスピード』で描かれたそのものが、当時の南カリフォルニアで起こっていたのです。
こうした映画さながらの社会現象に、ジェネレーションXやジェネレーションYの多くは、「この時代に、こんな事が起こるのか?」とか「クルマで遊ぶのは、けっこう楽しそうだ」といった感覚を持つようになります。
当時、すでにアメリカでは「若者のクルマ離れ」が広がっていて、筆者は米大手自動車メーカー各社の幹部から「ウチの子どもたちはクルマを移動の手段としか見ていない。我々の世代とはクルマに対する感覚が大きく違う」という声をよく聞いていました。
ホンダ(北米法人)を含めた自動車メーカー各社は、このブームが非合法な部分が強いことや、メーカーが推奨しない改造パーツを使う場合も少なくないことから、ブームとは“一定の距離”を常に保ってきました。
その後、スポコン系を主体とする日系改造車ブームは、各州の当局が規制を強化するなかで、非合法としてのハチャメチャ感は当然なくなって若者たちの多くが興覚めし、ブームは短期間で終焉します。
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『ワイルドスピード』では3作目の舞台を日本とするあたりまでが日系改造車が主体の演出であり、4作目以降は日系改造車の存在感が一気に薄れ、作品の流れが新しい方向へと変化していきました。
そんなあの時代を知るアメリカのジェネレーションXやジェネレーションYにとって、現代のインテグラは心の奥底にあるかつてのインテグラへの憧れを呼び起こす1台だといえるでしょう。
Writer: 桃田健史
ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
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