なぜデザイン激変!? トヨタ新型「クラウン/プリウス」全面刷新で一気に路線変更した意外な理由とは
ハイブリッド専用車以外のプリウスの価値とは?
一方、プリウスが売れ行きを下げた理由は、ハイブリッドがトヨタ車の大半に行き渡ったからです。
ハイブリッドの普及を振り返ると、3代目プリウスが大ヒットした2010年頃は、トヨタのハイブリッドはクラウン、「SAI」、「ハリアー」など一部の高価格車が中心でしたが、2011年に初代(先代)「アクア」が発売されるとコンパクトな車種も増え始め、今ではミニバンの「シエンタ」やノア/ヴォクシー、売れ筋SUVの「ヤリスクロス」や「カローラクロス」などにもハイブリッドが用意されています。
ハイブリッドは珍しい機能ではなくなり、プリウスの「ハイブリッド専用車」という価値も薄れ、売れ行きが下がりました。
やはりプリウスを廃止する方法もありましたが、初代モデルは世界初の量産ハイブリッドです。クラウンと同様、伝統ある車種で認知度も高く、存続することになりました。
プリウスは燃費が重視されるハイブリッド専用車であることと、リアゲートを寝かせた5ドアハッチバックの外観もプリウスの大切な特徴ですから、これを失うとプリウスらしさも薄れます。
そこで新型プリウスはフロントウインドーやリアゲートを寝かせた外観を一層際立たせ、5ドアクーペ風に発展させてプリウスらしさを象徴化して磨き上げました。
パワーユニットも、1.8リッターに加えて、パワフルな2リッターを設定して動力性能も高まり、ハイブリッドのスペシャルティカーになったのです。
WLTCモード燃費を競えば、コンパクトで軽いヤリス ハイブリッドXの36km/Lに敵いません。その代わり低燃費以外のハイブリッドの特徴とされるモーター駆動の高い瞬発力、滑らかで静かな加速感などにも力を入れました。
新型クラウンが生まれた背景には、トヨタに類似した車種がないことも挙げられます。クラウンクロスオーバーはセダンボディのSUVですから、同じプラットフォームを使うハリアーや「RAV4」とは性格が異なり重複しません。
新型プリウスも同様です。今のトヨタに全高を1430mmに抑えた5ドアクーペ風の車種はありません。乗降性に不満が伴う代わりに、外観がスマートでカッコ良く見えます。
つまり新型クラウンと新型プリウスは、トヨタのラインナップのなかで「空席」になっていた部分に収まり、従来のトヨタ車では獲得できなかった顧客を呼び込める可能性もあるため商品化されました。この2車種には共通点が多いのです。
気になるのは両車の人気です。通常なら登録台数で判断できますが、今は半導体などの不足で新車の納期が遅れており、データからは正確な人気度が分かりません。
そこで販売店に尋ねてみると、新型クラウンについては以下のように返答されました。
「以前のクラウンは、従来型からの乗り替えが圧倒的に多かったです。それが新型では、購入を控える傾向も見られ、従来型のお客さまはさほど多くありません。
その代わりハリアーやRAV4など、SUVを使うお客さまが注目しています。メルセデス・ベンツ、BMW、アウディなども下取りに入り、今までクラウンを含めてトヨタ車に興味を示さなかったお客さまが、関心を持っておられます」
トヨタは2020年5月に、国内の全店が全車を扱う販売体制に移行しました。以前は、クラウンはトヨタ店だけが扱い、ハリアーや「アルファード」はトヨペット店の扱いでしたが、今はどこの販売店でも全車を購入できます。
そのために先代クラウンでは、ハリアーやアルファードへの乗り替えが進んで登録台数を減らしましたが、新型では逆にハリアーやRAV4からクラウンへの乗り替えが生じているというのです。
プリウスのユーザーの反応について販売店スタッフは次のようにいいます。
「新型プリウスでは、外観のカッコ良さを重視するお客さまが増えました。そのために欧州車からの乗り替えも見られ、従来とは異なるお客さまが来店されています。
そのような新しいお客さまにはパワフルな2リッターエンジン車が人気ですが、今までのプリウスから乗り替えるお客さまは1.8リッターで十分といわれます。
それなのに1.8リッターは、法人向けの「X」と、KINTO(定額制カーリース)専用車の「U」しかありません。価格が割安な1.8リッターエンジン車を充実させてほしいです」
新型クラウンと新型プリウスの正確な売れ行きは、まだ分かりませんが、生き残るために新しいクルマ造りに挑んでいます。
最近は各メーカーともに、セダンを筆頭に車種の廃止が増えていますが、生き残りを真剣に考えると新たな活路も生まれるようです。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
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