スバルにはテストドライバーがいない!? 「走れるエンジニア」を育てる「スバルドライビングアカデミー」の狙いとは?

SDA受講に所属部署やジャンルを問わない理由は?

 創設にかかわったひとりである執行役員CTO(最高技術責任者)の藤貫哲郎氏は、SDAについて次のように語っています。

「SDAはスキルのある人間のレベルを高めること、そして彼らが核となり教育的立場になれる存在になってもらうことが目的です。技術を次の世代にシッカリ伝承するためにも、体系立てて育成をおこなう必要があると考えました」

エンジニアの運転スキルを磨く「スバルドライビングアカデミー」
エンジニアの運転スキルを磨く「スバルドライビングアカデミー」

 所属部署やジャンルを問わない理由については、「エンジニアにとって大事なことは『お客さまの気持ちになれるのか?』です。つまり『機能として満足していればOK』ではダメで、クルマ全体のなかで『このシステムはどうあるべきなのか?』をシッカリと理解しないと意味がない。そのためには『クルマ全体を知る必要がある』というわけです」といいます。

 自動車メーカーには車両開発のためにさまざまな技術基準があり、それをクリアできれば会社として市販化は可能になりますが、藤貫氏はそこに疑問を呈しています。

「正直いうと、いまの技術基準で『足りない部分』と『過剰な部分』があります。それを見極めるためには実際の使われ方を、走らせて考えていかなければなりません」(執行役員CTO 藤貫哲郎氏)

 つまり、スバルは運転技能や評価能力のレベルアップは、すべての部署のメンバーに求められるスキルだと考えているわけです。

 この話を聞いて、筆者があるスバルの最新モデルに乗ったときに、エンジニアのひとりが教えてくれたことを思い出しました。

「絶対性能はもちろん、スバルがこだわり『動的質感』の実現のために最新の計測技術を活用しましたが、やはり計測機では測りきれない過渡領域評価は“人の力”が大きいです」

 つまり、今後もスバルがスバルであり続けるために、SDAは重要な鍵なのです。

 2022年からスバルは、カーボンニュートラル燃料の実証実験と次期モデル開発のためにスーパー耐久シリーズに参戦しています。スバルにとっては2008年のWRC撤退以来となるワークス参戦になりますが、本井雅人監督を含む主要メンバーの多くがSDA出身です。

「モータースポーツを経験すると、私自身もそうだったのですが、クルマ一台を見られるエンジニア、アジャイルに行動ができるエンジニアが育ちます。

 実は2017年にSDAメンバーで『アイドラーズ12時間耐久レース』に参戦、ステップアップも考えていましたが、さまざまな事情で先に進みませんでした。

 しかし、トヨタ(GR)さんからのお声がけをキッカケに参戦を決意しました。

 なぜ、決意できたのか? それはSDAがあったからです。

 この活動は継続的にやっていきます。なぜなら、我々は技術開発・人材育成のためにおこなっているから。

 ここで得た知見やノウハウは量産車開発に必ずフィードバックしますので、ご期待ください」(執行役員CTO 藤貫哲郎氏)

※ ※ ※

 ちなみに、スーパー耐に参戦する「BRZ CNFコンセプト」にはエアコンやアイサイトが装着されています。

 一見レースには不必要なものに思えますが、モータースポーツという過酷な実験場で得られた「気づき」は、間違いなく量産モデルに活きると筆者は信じています。

 最後に筆者からひとつ提案をさせていただきます。このSDAを一般ユーザー向けにも展開してみるのはどうでしょうか。

「作り手」と合わせて「乗り手」もスキルアップしていくことができれば、よりクルマに対する要求値も高くなり、「もっといいスバル」が生まれやすくなると思っています。

【画像】白ボディに青ライン!「SDA」訓練用の「BRZ」がカッコいい!

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Writer: 山本シンヤ

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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