「家族の相棒」が超進化! トヨタの新型ミニバン「シエンタ」売れない理由が見つからない!?【試乗記】
静かでスムーズ! 誰でも運転しやすい!
新型シエンタのパワートレインは、ガソリン車が1.5リッター直列3気筒NA+ダイレクトCVT、ハイブリッドは同エンジン+2モーター(THS II)とヤリスと同じですが、車両重量アップに合わせて制御やギア比は最適化されています。
ガソリン車は3000rpm以上回してしまうとノイジーですが、1.3トンのボディを軽々と走らせる実力を備えています。自然吸気エンジンながらも実用トルクがダイナミックフォースエンジンの特性とダイレクトCVTの巧みな制御(ラバーバンドフィールが最小限)により、一般道ではそこまで回すことなく交通の流れをリードすることは可能です。
一方のハイブリッド車は余裕すら感じるレベル。メーターに表示されるハイブリッドシステムインジケーターは「ECO」の領域を超えることなく交通の流れをリードできるパフォーマンスを備えています。
この辺りは唸るだけで進まない先代のハイブリッドシステムと比べると雲泥の差といえるでしょう。エンジン回転もガソリン車より抑えられているので、静粛性もより高いレベルにあります。
燃費は一般道~首都高を大人3人乗車+荷物を搭載してそれなりに元気に走らせた状態で、ガソリンは15km~16km/L、ハイブリッドは23km~24km/Lを記録。前面投影面積が大きい上に車両重量1.3トン越えの3列ミニバンとしては十分すぎる値です。
もう少し燃費を意識して走れば、高速道路であればモード燃費越えは余裕でしょう。
フットワークはどうでしょうか。
プラットフォームは「ヤリス」と同じ「GA-B」ですが、リアセクションとリアサス(トーションビーム式)はシエンタ専用設計となっています。
最大の特徴は車体に高減衰タイプの構造用接着剤&マスチックシーラー(ルーフに採用)の採用による“しなやか”ボディで、振動低減と剛性バランスが実現されています。ちなみにこれらのアイテムは価格アップがほぼゼロ……という嬉しいアイテムだといいます。
ステア系はハードの刷新+第3世代EPS制御採用により、女性でも扱いやすい軽い操舵力と操作に対する正確性や直結感を両立。重い操舵力なのにタイヤが宙に浮いた感覚の先代のステアフィールとは雲泥の差です。
ハンドリングはシエンタのキャラクターから決して機敏な動きはありませんが、操作に対して忠実に反応してくれます。
ロール量は先代とそれほど変わりませんが決定的な違いはコーナリング時の姿勢です。
先代はフロント2輪で強引に曲がろうとして結果的に思い通りに曲がらなかったのに対して、新型は4輪を上手に使いながら自然に素直に曲がってくれます。連続性あるクルマの動きなので過度な動きもないのでドキッとするような不安になるような挙動変化もありません。
その結果、スポーティな味付けではないものの基本素性を鍛えたことで、誰でも気負いなく高性能を実感できる走りといえるでしょう。
首都高速の左右にコーナーが連続するようなところで走らせると、3列シートのミニバンとは思えない軽快な走りで、ヤリスの仲間であることを実感します。
これに加えて、5ナンバーサイズの扱いやすいボディと最小回転半径5.0mなども「運転のしやすさ」に大きく寄与しているはずです。
乗り心地は凹凸乗り越え時の絶対的な入力の少なさに加えて、抑え込むのではなく逃がすようなショックの吸収の仕方による、優しいけど決してフワフワしていない快適性を実現しています。
車両重量や前後の重量バランスの違いからわずかに印象は異なり、ガソリン車はスッキリした足の動き、ハイブリッド車はシットリが高い足の動き、そしてハイブリッド車のE-Four(4WD)はストローク感の高さが印象的でした。
運転支援デバイスはコンパクトクラス初採用となる第3世代となる最新のトヨタセーフティセンスです。
検知範囲が拡張された「プリクラッシュセーフティ」に加えて、リスクを先読みして運転操作をサポートする「プロアクティブドライビングアシスト」は先に搭載されているレクサス「NX」やトヨタ「ノア/ヴォクシー」よりも制御は滑らかに感じました。
今やデフォルトとなりつつある全車速追従機能付きクルーズコントロールも用意されていますが、注意してほしいのは電子シフト採用の「ハイブリッドZ」のみ「停止保持機能有り」、メカシフトの他グレードは「停止保持機能無し」であることです。
この辺りは冗長制御のためのコストの問題が大きいですが、市場の要望が多ければ採用グレードは増えるでしょう。
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見た目は「カジュアル」、走りは「骨太」と、開発コンセプトである「家族の相棒」にピッタリな一台で、正直いって新型シエンタが売れない理由は見つかりません。
価格は195万円から310万8000円と先代よりもアップしていますが、大幅レベルアップの基本性能と最新&便利な装備の充実を考えると、むしろ「コスパ」は高いと思っています。
残価設定ローンの残価率も高いので、毎月の支払いは想像以上に抑えられるはずです。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
こんな人が選考委員じゃあ、トヨタ安泰だね!