スバルの挑戦に脱帽!? 勝負と開発の両立に苦悩も… レースで「アイサイト開発」実践! いいクルマづくりの裏側とは

進化が止まらない! 航空機端材の再利用&レースでアイサイト開発! その裏側は?

 大きなトラブルもないことから、今回はBRZ CNFコンセプトの開発に関わる各領域のエンジニアに、この取り組みに関する話を聞いてみることにしました。

―― 序盤はハンドリングに悩みがあったように感じましたが、菅生以降は方向性が定まったように感じます。どのような変化があったのでしょうか?

 伊藤(シャシ領域担当):当初は「量産車をベースに限界領域を引き上げる」という考え方でしたが、全く通用せず……。

 正直にいうと、基本的なことができていませんでした。

―― 基本的なこととは、何でしょうか?

 伊藤:レーシングスピードで走らせるうえでの、「クルマのバランス」ですね。

 そこで「どういう目的で」、「どう動かしたい」、「だからこの仕様が必要」といった量産車と同じ考え方で見直しをおこないました。

 レーシングカーは乗りやすく、走りやすくに加えて、速さも追求しなければいけませんので、データを取り、それを性能に落とし込み……の繰り返しで、少しは形が少し見えてきたかなと。

―― つまり、量産車もレーシングカーも一緒だということですね?

 伊藤:そうですね。我々はスリックタイヤを履いて、このスピード領域で戦うことの知見がなかったので、「量産車の延長戦上で行けばイケるだろう」という甘い考えだったのも事実です。

 その結果、性能は足りず、バランスも崩れた……ということです。

―― まだ5戦目ですが、レースを通じてどのような気づきがありましたか?

 伊藤:一番は「感度」が変わったことだと思います。

「限界付近で攻めて走る」という限られた条件のなかでクルマを動かすには、基本的なことができていないと挙動やコメントに表れたのだなと。

 量産車しかやっていなかったが故に、認識不足を痛感しました。

 このプロジェクトは「カーボンニュートラル」がテーマですが、今後燃料が変わってもクルマである以上シャシ性能は必要ですので、引き続きこだわり続けていかなければいけない領域だと認識しています。

BRZ CNFコンセプトを支えるスバルのエンジニア達(左から伊藤氏、北川氏、阿部氏)
BRZ CNFコンセプトを支えるスバルのエンジニア達(左から伊藤氏、北川氏、阿部氏)

―― 続いて、エアコンについて教えてください。「モータースポーツでエアコンを鍛える」、どのようなイメージでしょうか?

 北川(エアコン担当):S耐は長丁場ですので、ストレスを減らし運転に集中してもらうためには快適性は大事な要素だと考え、エアコンを搭載しています。

―― しかし、レースカーは速さが大事です。ドライバーから「外してください」といわれたこともあると聞きましたが?

 北川:エアコンを外すと軽量化にも効くので、そちらに傾きかけたことがあるのも事実です。

 ただ、我々はそのコメントを聞いて「やる気スイッチ」が入ったのも事実です。

 ハードは量産車のエアコンですが、タイムの影響のない所でエアコンを効かせる……という専用制御を取り入れています。

 具体的にはストップ&ゴーが多いもてぎを活かし、減速時にエアコンを積極的に稼働させています。

 ちなみに減速時に効かせるとエンジンブレーキを強くできるので、ブレーキの負担を下げる効果もあります。

―― エアコンによる重量増をほかの部位で軽量化できれば、問題は解決ですよね?

 伊藤:レースなので「軽くする」というシンプルな考え方もありますが、その一方で「重くなっても同じ運動性能が出せればOK」という考え方もあります。

 そこは、シャシ領域の課題のひとつでもあります。

 今後、量産市場で増えてくる電動化車両は重くなるので、それでも「スバルらしいよね」といってもらうためにも、クリアしなければならない課題でもあります。

―― エアコンでも驚きですが、さらに驚きなのがアイサイトの投入です。当初から計画にあったものなのでしょうか?

 阿部(アイサイト担当):アイサイトはスバルのアイデンティティのひとつです。

 前々から「これを用いて新しい価値を提供できなか?」と検討はしていましたが、本井から「やってみよう!!」ということでS耐への投入が決まりました。

 ただ、実はこれが最初ではなく、2017年にアイドラーズ12時間耐久に参戦したレヴォーグのアイサイトでデータ取りはしていました。

――今回はどのように活用していますか?

 阿部:まずは量産のステレオカメラがレーシングスピードの領域でどこまで認識するかの確認で、プリクラッシュブレーキや追従クルコンは外しています。

 スバルは2030年に交通死亡事故ゼロの実現を目標にしていますが、より複雑な事故環境において「ぶつからない」を実現するには、一般道よりも厳しい環境で認識性能を鍛えることが大事だと考えています。

 レーシングスピードで検証することで、一般道で使うユーザーへの安心・安全をより高められる可能性はあると思っています。

――モータースポーツシーンで、アイサイトはどのように役立てそうですか?

 阿部:エアコンと同じで、ドライバーの運転負荷軽減ですね。例えば「FCY(フルコースイエロー)の速度調整や追従走行」、「フラッグの認識」などアイデアはたくさんあります。

 山内選手は「ピットロードで自動運転」といっていました(笑)。

――豊田社長を含めGRのメンバーも驚いており、トヨタからの期待も大きいです。

 阿部:GR86だけでなくほかの車種でも使っていただけると、嬉しいですね(笑)。

――ちなみにS耐の活動を始めてから、変わったことはありますか?

 伊藤:横の繋がりですね。実際にそこからアイデアが生まれ、「やってみようぜ!!」とギアが噛みあい、それが結果に繋がり始めています。

 もちろん、勝負事ですので「GRさんには負けたくない!!」という想いは、皆のベースにあると思っています。

【画像】BRZ CNFコンセプトの進化は止まらない! GRと共に「いっしょにいいクルマつくろう!」目指す様子を見る!(29枚)

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