スバルの挑戦に脱帽!? 勝負と開発の両立に苦悩も… レースで「アイサイト開発」実践! いいクルマづくりの裏側とは

2022年の「スーパー耐久シリーズ第5戦もてぎ」が2022年9月3日、4日に開催されました。今回はST-Qクラスに参戦する61号車Team SDA Engineering BRZ CNF Conceptの裏側を取り上げます。

ただ勝つだけではない…!? スバル挑戦の裏側とは

「スーパー耐久シリーズ第5戦もてぎ」が2022年9月3日、4日に開催されました。

 7月末に開催された第4戦オートポリスから約1か月、第5戦は5時間耐久となります。

 さまざまなチームが参戦するなかで、61号車Team SDA Engineering BRZ CNF Concept(以下BRZ CNFコンセプト)は、勝負に勝つことに加えて、今後の予防安全を視野に入れた取り組みを始めています。

ただ速く…レースで勝つただけではない! BRZ CNFコンセプト開発の裏側とは
ただ速く…レースで勝つただけではない! BRZ CNFコンセプト開発の裏側とは

 スバルが、スーパー耐久に参戦する目的は、カーボンニュートラル燃料の挑戦と次期モデルの先行開発をGRとガチンコで戦いながらおこなうことに加えて人材育成という狙いもありました。

 戦いに関しては、4戦を終えてスバルが3勝、GRが1勝という状況です。2022年のスーパー耐久シリーズは7戦のため、スバルは今回のもてぎでGR86に勝つと勝ち越しとなります。

 前々回の第3戦菅生から“速さ”にもこだわったアップデートで“流れ”が変わったBRZ CNFコンセプトですが、今回はどのような進化がおこなわれているのでしょうか。

 チーム監督の本井雅人氏に聞いてみました。

「前回のクラッチトラブルはサプライヤーさんと解析をおこない、熱によるゴム部品の劣化だと判明。

 新品への変更に加えて冷却ダクトを追加しました。

 この問題は他チームやカップカーでも出ているのでフィードバックしたいと思っています。

 走りの部分ではサス周りは前回のバランスを活かした正常進化ですが、今回はより回頭性を上げるためにLSDにも手を入れ始めています」

 またBRZ CNFコンセプトにはエアコンが装着されています。

 前回大きくアップデートしましたが、その評価はどうだったのでしょうか。

「前回山内選手から『コンマ5秒遅くなるならスイッチは入れません、それがプロです』といわれたことで担当者の目の色が変わり、進化版のエアコン制御を採用し、タイムダウンすることなく快適性を実現しています。

 また、エアコンダクトも機密性を上げることで確実に冷気をドライバーに届けられるように改良をおこなっています」

 今回は「航空部門で使用されず廃棄される炭素繊維の端材を再生して作られたカーボンボンネット」が、SUBARU航空宇宙カンパニーとスバルのサプライヤーである千代田製作所と連携して開発されていることが発表されました。

 廃棄物の減量に加えて、再生利用による製造時のCO2削減(新品に対して約1/10)などSDG’sの観点はもちろんですが、『オールSUBARUで戦う』という部分も大きいようです。

 現時点ではボンネットのみですが、今後ほかのパーツはもちろんですが、他社への供給の検討も進めているそうです。

 そして、今回の注目アイテムといえば、スバルの運転支援システム「アイサイト」の装着です。

 筆者(山本シンヤ)は開幕前からBRZのロールケージ形状がGR86と異なること、BSM(後側方車両接近装置)が外されていないことが気になっていましたが、その答えはこれだったのです。

 ちなみにMT×アイサイトの組み合わせはスバル初となります。

 今回は量産仕様のステレオカメラの性能がレースの極限状態でどこまで通用するかのチェックがメインで、プリクラッシュブレーキやアダプティブクルーズコントロール機能は外されています。

 アイサイト採用の経緯、今回は何のチェックをしているかなどは、後述で紹介します。

 筆者が驚いたのは、エアコンやアイサイトなど、一見モータースポーツとは無縁と思われるアイテムを、「モータースポーツの現場で鍛える」という発想です。

 この活動が「未来のスバル車のため」におこなわれているということがよく分かる事例といえると思います。

 ちなみに、アイサイト投入の話を聞いたGRの佐藤プレジデントは「我々にそういう発想はなかったので、『素直に凄いな』と『我々もまだまだ甘いな』と思いました。今回のスバルの取り組みからGRが進める『モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり』について学びを得ました」と語ってくれました。

 このような取り組みがあったなかで、土曜日の公式予選は、曇り空ながらドライコンディションで実施。予選タイムはA/Bドライバーの合算となりますが、結果は以下になります。

 ●Team SDA Engineering BRZ CNF Concept
 4分20秒770
 A:井口卓人 2分10秒458
 B:山内英輝 2分10秒312

 ●ORC ROOKIE GR86 CNF Concept
 4分19秒922
 A:蒲生尚弥選手 2分8秒817
 B:豊田大輔選手 2分11秒105

 その差は前回の0.968秒よりも僅差となる0.848秒。

 スバル陣営は「予選は一度もGR86に勝てていないので、今回も悔しい」と語っていますが、両方のマシンを俯瞰して見て思うのは「BRZ CNFコンセプトは速い」です。

 なおエンジン出力はGR86 CNFコンセプトは285ps程度、BRZ CNFコンセプトは255ps程度と30ps近い差があります。

 もてぎはストップ&ゴーが多いコースレイアウトのためエンジン出力がタイムに影響しやすいのですが、この結果は「タイム差が僅か=BRZのハンドリングが良いこと」を証明しています。

 予選後に井口卓人選手は、「占有走行からマイナートラブルがあり予選は気持ちの良いアタックとは行きませんでしたが、走り出しから比べると確実に進化していると感じました」と語ってくれました。

 そして日曜日は、ピットウォークを経てスタート進行です。BRZ CNFコンセプトは第2グループの2番手で、その斜め前にはGR86 CNFコンセプトの姿が見えます。グリッド上ではアイサイト装着の話を聞きつけたモリゾウ選手が、井口選手に「アイサイト付いてるの?」と質問すると井口選手は「クーラーもついていますよ」と自慢げに返答している姿も見掛けられました。

 11時にフォーメーションラップが開始され、5時間の決勝がスタート。

 序盤からBRZ CNFコンセプトとGR86 CNFコンセプトは接近戦です。コーナーではBRZ CNFコンセプトがGR86 CNFコンセプトに近づき横に並ぶものの、抜くまではいかずという展開が続きます。

 今回は2台共にトラブルはほぼゼロで、まさにコース上でのガチンコバトルです。

 スバルのピットはGR86 CNFコンセプトとのタイム差の確認のために、多くの人がモニターに釘づけです。

【画像】BRZ CNFコンセプトの進化は止まらない! GRと共に「いっしょにいいクルマつくろう!」目指す様子を見る!(29枚)

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