ある意味「ガチンコ」勝負!? トヨタ&スバルは似た者同士? BRZが菅生で魅せた「速さ」とは

GR86が「前向きな欠場」を選択したワケは?

 では、ORC ROOKIE Racingはどうでしょうか。

 実は28号車のGR86は参戦をキャンセル。「アジャイル開発にこだわる」「最後の最後までカイゼンの手を止めない」が信条のGRですが、何があったのでしょうか。

 車両の開発責任者であるGR車両開発部の藤原裕也氏が現場に来ていたので、理由を聞いてみました。

「一番は『クルマの完成度』の問題です。

 具体的にはハンドリング、ブレーキ、トランスミッションなどがそうです。

 我々のマシンはノーマルのGR86に対して大きく手を加えています。

 開発車両なので未完成な部分があるのは理解していますが、我々が把握できている所/できていない所があったのも事実です。

 そのため、一度クルマの根本を見直さないと同じ事の繰り返しになってしまうため、いったん立ち止まって考えよう……と。

 つまり、開発をより効率的に早くおこなえるようにするために欠場という判断をしました。

 そんななか、私が現場に来たのは、いつもと違う環境でスバルさんを観るためです。

 いつもは自分たちのことで手一杯ですが、今回はある意味、俯瞰して眺めることができるので、何か気づきが得られたらいいなと思っています」

 いつものガチンコバトルが見られないのは残念ですが、このプロジェクトの本質は「レースの場を活用しながら、将来に向けた先行開発をおこなう」ことにあります。

 問題を解決することなくレースに参戦するのは、開発としては間違っているわけで、GR86は「前向きな欠場」という選択をしたわけです。

 ただ、お互いの話を聞けば聞くほど、「ホント似ているよね」と。

 段階的な進化から一歩抜き出ようと挑戦をおこなうスバル、飛び抜けていたが段階的な進化をおこなうために冷静になったGR、つまり「アプローチは違うけど、目指す所は同じ」というわけです。

「己との闘い」とはいえ、影のライバルはST-4クラスに参戦する86号車(トムススピリット)だったという
「己との闘い」とはいえ、影のライバルはST-4クラスに参戦する86号車(トムススピリット)だったという

 今回のスバルは「己との闘い」ですが、影のライバルはST-4クラスに参戦する86号車(トムススピリット)。

 前回の富士では同じエンジンながらも大きく差を付けられていましたが、今回の予選結果はこの通りです。

 ●61号車
 A:井口卓人選手 1分33秒100
 B:山内英輝選手 1分33秒048

 ●86号車
 A:河野駿佑選手 1分34秒094
 B:松井孝允選手 1分33秒247

 本井監督は予選前に「86号車には追い付きたいという思いは強いです」と語っていましたが、追い付くどころか抜きました。

 Aドライバーの井口選手は「まだまだ課題はありますがマシンは大きく進化しており、エンジニアの皆さんの想いは着実にカタチになり始めています。欲をいえば28号車と直接対決をして前に出たかったですね!」と語ってくれました。

 このように今回の61号車は、いつもとはちょっと違います。

 その光景を見ていたGRの藤原氏は「BRZの伸びしろに、正直驚いています! この短期間でここまで速くなるとは予想していませんでした」と驚きを隠しません。

 ただ、1度だけヒヤッとしたシーンがありました。

 実は予選前のフリー走行で、コース上にストップしたのです。

 筆者は「トラブル?」と心配しましたが、そのとき乗っていた廣田光一選手に後で話を聞くと、「ハザードを押すときに誤ってイグニッションスイッチに触れてしまい、エンジンが止まってしまいました」と話してくれました。

 ただ、本井監督は「レースカーはインパネセンターにスイッチ類を集約していますが、その配置の仕方に配慮が足りなかった。すぐに改善します」と、その場で自ら誤操作防止用のカバーを製作。さすがエンジニアです。

誤操作防止用の赤いカバーが本井監督自らの手によってその場で製作された
誤操作防止用の赤いカバーが本井監督自らの手によってその場で製作された

 また菅生には、これまでスバルの様々なモデルの開発に関わり、走りにこだわりのあるブランドへと引き上げた辰己英治氏の姿も。氏はSTIに移籍してから、ニュルブルクリンク24時間耐久レースへの参戦などを通し、人材育成と車両開発に携わっています。

 今回のスバルの取り組みについて「これまでクルマつくりは裏側でやっていましたが、表で戦うことが大事だです。特にエンジニアは人並みではダメです、それ以上を目指す必要があります。そういう意味ではモータースポーツを通して今回のような若い人材を育てることは、スバルにとって非常に意義のあることです」と話していました。

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