原2HY戦争! 水冷エンジン搭載でシグナスがPCXとの差を詰める!!

人気の原付二種スクータークラスで、販売好調トップ快走中のホンダPCXに待ったをかけるのは誰か……!? ヤマハのエース“シグナス”が「グリファス」へとフルモデルチェンジし、熱きHY戦争を仕掛けます。原2スクーター乗りのバイクジャーナリスト青木タカオさんが試乗しました。

シグナスにも”BLUE CORE” エンジン

 コロナ禍でパーソナルモビリティの需要が高まり、大人気となっているバイク。なかでも活気を帯びているのが、維持費の安さや機動性に優れる原付二種(原2)スクーターです。

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『CYGNUS GRYPHUS/シグナス グリファス』に試乗する筆者(青木タカオ)

 メーカー側もラインナップを充実させ、シェア争いは熾烈となっていますが、ヤマハが大きな一手を打ってきました。『シグナスX』をフルモデルチェンジし、シリーズ初の水冷エンジンを搭載。『CYGNUS GRYPHUS/シグナス グリファス』として2021年12月23日に新発売しました。

 ちなみにGRYPHUSは、コンドル科猛禽類の学名。コンドルのような鋭い眼差しのフロントマスクが目をひきます。

可変バルブ機構付き水冷”BLUE CORE”エンジン搭載

 水冷”BLUE CORE”エンジンは可変バルブ機構付きで、パワーを従来比で20%以上アップし、燃費も約20%向上。アンダーボーン型フレームやY字6本スポークのアルミキャストホイールも新設計し、スポーティで躍動的なイメージを継承しつつスタイルを刷新しています。ここにきて、凄まじい本気度ではありませんか!

倒さなければならない敵がいる

 これほどにヤマハが意気込むにはワケがあります。2010年に初代が登場したホンダ『PCX』は、発売後約3週間で年間販売計画台数8000台の9割を超える7400台以上をセールスする爆発的ヒットに。以来、モデルチェンジを重ねつつ順調に販売台数を伸ばし、20年12月に発表した年間販売計画台数は1万8000台、原付2種スクーターでの売り上げトップを快走し続けています。

 ヤマハも『NMAX』『シグナスX』『アクシスZ』『トリシティ125』という強力な布陣で対抗してきましたが、「打倒PCX」を果たせません。なんとしても、このクラスを制圧したいのがホンネです。

 というのも、アジアをはじめ欧州、南米など、110~125ccクラスの需要は世界的に増加の一途を辿ることが間違いなく、今後も大事な成長市場。開発にもいっそうの力が注がれます。

ヤマハ原2クラスを支える名門

 ヤマハ“シグナス”は1982年の『シグナス180』から始まる伝統あるシリーズ。初代『シグナス180』は中途半端に大きいエンジンの排気量からもわかる通り、近場の足ではなく、遠くにも行けるプレミアムスクーターとして登場したのでした。

 今となってはその空冷4サイクル単気筒エンジンが、スクーターには搭載されることが珍しいトラディショナルなOHV式だったこともたいへん気になります。

 時代はホンダとヤマハが新型を次々に市場に投入する“HY戦争”の最中。高性能なレーサーレプリカが人気を集める中で、プレミアムスクーターのセールスは伸びません。

 シグナスは84年に125cc化され、単気筒エンジンはOHC化されます。「タンデムで長い距離も走れるジェントルな原2スクーター」というコンセプトに基づき、このクラスでは異例ともいえる一軸バランサーが採用され、振動軽減が図られました。

1996年には『シグナス125』のデラックスバージョン『シグナス125D』を発売

 3代目『シグナス125』は95年に発売。製造はここから台湾ヤマハとなり、デザインがスポーティ路線へ一新されます。98年の『シグナス125Si』では車体がよりいっそうコンパクトとなり、2002年には『シグナスX』と車名を変更。SOHCエンジンを2→4バルブ化するほか、メッキシリンダーも採用し、最高出力は10.4PS/8500rpmに達します。

 このときリヤサスペンションをツインショックにし、前後3.50-10だったタイヤサイズをフロント110/70-12、リヤ120/70-12に大径化。乗り心地を向上しました。

『シグナスX』は9.8PS/7500rpmを発揮する空冷4ストSOHC4バルブエンジンを搭載

 3~4年ごとにモデルチェンジし、『シグナスX』は9.8PS/7500rpmを発揮する空冷4ストSOHC4バルブエンジンを搭載。フロントに熱の放射を高める245mm径ウェーブディスクブレーキを採用するなど、エッジの効いたスタイルと同様、装備面もスポーティさをアピールするものとなっています。

プレミアム路線へ原点回帰

 第6世代となる『シグナス グリファス』は車体サイズをひと回り大きくし、持ち前のスポーティさをそのままに、プレミアムスクーター路線への原点回帰が感じられます。

野生動物の肉体のような機能美を連想させるシルエットが『シグナス グリファス』の特徴

 動物が獲物を捕らえる瞬間のアグレッシブさをデザインコンセプトに、野生動物の肉体のような機能美を連想させるシルエット。LEDヘッドライトが2灯となり、テールランプは面発光とし、肉食獣の鋭い視線をイメージしたシャープなデザインとなりました。

 シート高は『シグナスX』より10mm高い785mmですが、身長175cmの筆者がまたがると両足カカトまでベッタリ届き、足つき性を犠牲にしていません。

足もとがフルフラットでフット位置の自由度が高いのも好印象

 足もとがフルフラットで、フット位置の自由度が高いのも好印象。地上高がやや高めで走破性に優れることを予感させますが、それゆえに着座位置とフロアが近く、ヒザの曲がりがやや窮屈。アグレッシブさも同時に感じるもので、小柄な人が乗るともっとゆったりし、印象がまた異なってくるでしょう。

装備面をより充実

 メーターは『シグナスX』もフルデジタルでしたが、液晶画面がより大きくなり、スピード感あふれるデザインと見やすさを兼ね備えたものにグレードアップ。バーグラフ式のタコメーターがエンジン回転数の上下をダイナミックに演出し、疾走感のあるオープニングアニメーションも所有感を満たすものです。

シート下のトランクは約28Lの容量を確保

 シート下のトランクは約28Lの容量を確保。『シグナスX』は約29リットルでしたから、容量はほぼ同等。ヘルメットホルダーが2つあり、タンデム時などの利便性を向上しています。

 500mLのペットボトルが入るフロントポケットには、スマートフォンなどの充電に便利なUSBソケットが備わりました。『シグナスX』ではシガーソケットでしたので、より現代的になったと言えるでしょう。

安定志向のハンドリングに

 ホイールベースを『シグナスX』より35mm、全長を45mm伸ばし、ゆとりのある車体サイズとしていますが、車幅は『シグナスX』と690mmのままで、スリムさを維持しています。

 車体重量は4kg増えて123kgとしましたが、軽快性を失わないようキャスター角を27°00′→26°30′に立てつつ、タイヤをフロント120/70-12、リア130/70-12とワンサイズ太くし、優れた直進安定性と機敏な操縦性を両立しているのです。

足まわりを刷新し、優れた直進安定性と機敏な操縦性を両立

 また、『シグナスX』から受け継いだ12インチの足まわりは小回りが効くもので、取り回しのしやすさが強力な武器となるでしょう。『PCX』はフロント14/リヤ13インチ、『NMAX』は前後13インチと大径で、12インチを支持する根強いファンにとっては待望のフルモデルチェンジとなりました。

 ブレーキはコンバインド式(前後連動)になり、タッチと制動力を向上。フロントは片押し式2ピストンキャリパーと245mm径ウェーブディスク、リアディスクは30mm大径化し、230mm径に。片押し式1ピストンキャリパーは、スイングアームの後端にマウントされました。

正立式フロントフォークにフロントは片押し式2ピストンキャリパーと245mm径ウェーブディスクを装備

 前後サスペンションはインナーチューブ径33mmの正立式フロントフォークとツインショックの組み合わせ。シャキッとしていてフワつくことがありません。荷重がかかってもしっかりと踏ん張りが効く、スポーティな味付けです。

全域スムーズで心地いい回転フィーリング

 エンジン始動が静かで振動が少ないのは、始動モーターとジェネレーターを一体化した「SMG=Smart Motor Generator(スマート・モーター・ジェネレーター)の採用によるところで、パワーユニットの軽量・コンパクト化も同時に実現しました。

エンジン始動が静かで振動が少ないのは、始動モーターとジェネレーターを一体化した「SMG(スマート・モーター・ジェネレーター)の採用によるところ

 シリーズ初の水冷エンジンは混合気のタンブル(縦渦)を効果的に生み出すよう燃焼室が小さく設計され、圧縮比を10.0→11.2に高め、FIセッティングとの相乗効果で最高出力と燃費がそれぞれ2割増しに。可変バルブ機構が採用され、低速向けと中高速向けのカム(吸気側)のリフト量は6000回転で切り替わります。

 空冷時代、52.4×57.9mmだったボア・ストロークは52.0×58.7mmへと、よりロングストローク設計に。最高出力は2.2PSの向上を果たしていますが、車体の重量増の影響か体感的にはそれほど大きなパワーアップは感じられません。発進加速でドンと押し出されるのではなく、中高回転からパワーが伸びていきます。全域スムーズで、心地いい回転フィーリングです。

■シグナス グリファス
水冷SOHC4バルブ
ボア・ストローク 52.0×58.7mm
最高出力 12PS/8000rpm
最大トルク 11Nm/6000rpm
車体重量 125kg

■シグナスX
空冷SOHC4バルブ
ボア・ストローク 52.4×57.9mm
最高出力 9.8PS/7500rpm
最大トルク 9.9Nm/6000rpm
車体重量 119kg

■NMAX
水冷SOHC4バルブ
ボア・ストローク 52.0×58.7mm
最高出力 12PS/8000rpm
最大トルク 11Nm/6000rpm
車体重量 131kg

■PCX
水冷SOHC4バルブ
ボア・ストローク 53.5×55.5mm
最高出力 12.5PS/8750rpm
最大トルク 12Nm/6600rpm
車体重量 132kg

価格差なしで打倒PCXに挑む!

 さて、最後にライバルとの価格差を見てみましょう。下記のとおり、水冷エンジン搭載によって、ライバル『PCX』と同一価格となりました。

■シグナスX 33万5500円
■シグナス グリファス 35万7500円
■PCX 35万7500円
■NMAX 36万8500円

ロードレース世界選手権参戦60周年を記念した特別カラーモデル「CYGNUS GRYPHUS WGP 60th Anniversary」

 さらにロードレース世界選手権参戦60周年を記念した特別カラーモデル「CYGNUS GRYPHUS WGP 60th Anniversary」も1000台限定で2月24日に発売。こちらは36万8500円となっています。

『シグナス グリファス』と筆者(青木タカオ)

『シグナス グリファス』の登場で「ストップPCX」となるか。原2スクーターの勢力図がどう変わっていくのか、楽しみはつきません。

提供:バイクのニュース

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Writer: 青木タカオ(モーターサイクルジャーナリスト)

バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク技術関連著書もある。

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