豊田社長に訊く「BEV好きですか?」 トヨタ「ZEV350万台販売」レクサス「BEV100%化」宣言! 全方位電動戦略のホンネ

豊田章男社長に聞いてみた! 「BEVが好きですか? それとも嫌いですか?」
このような発表をしても、「トヨタ、焦って出してきたな」、「やっと我々(EV信者)のいうことを聞いたか」という人もいると思いますが、残念ながらニューモデル開発はそんなに短期間では無理です。
4、5年前から計画が進んでいたのはいうまでもないでしょう。さらにこんなことをいう人も出るかもしれません。
「トヨタ、電動化方針を変更するのか?」
これまで豊田社長も何度もしつこくいっていますが、トヨタの「選択肢は狭めない」という方針は今後も一切変わることはありません。
つまり、ここまで攻めの姿勢を貫いてもBEVは「いくつかあるパワートレインのひとつに過ぎない」ということです。
なぜ、トヨタはこんな非効率な手段を選ぶのか。
それも単純明快で現時点で「正解がない」からで、当然「選択と集中」をしたほうが経営的には楽ですが、トヨタはグローバルでビジネスをおこなっているため、各国・各地域のいかなる状況、いかなるニーズに対応しながらカーボンニュートラルを実現させる必要があるからです。
つまり、クルマを使う誰1人たりとも置いてきぼりにしてはならないという方針は、トヨタフィロソフィの「幸せの量産」へと繋がっています。
このように今回の発表は「石橋を叩きすぎて壊してしまう」といわれるほど慎重なトヨタが、初めてBEVに対して “攻め”の姿勢を具体的かつ明確にアピールしました。
筆者(山本シンヤ)はすべて納得といいたいところですが、ひとつだけ気になることがあります。
それは豊田社長のBEVに対する「想い」や「気持ち」です。
確かに「BEVもちゃんとやっていますよ!!」、「BEVは反対ではない」といった現実的な話は何度も聞きましたが、それ以外のこと……つまり、もっと踏み込んだ話(本音!?)を聞くことはこれまでなかったと思っています。
その一方「ガソリン臭いクルマが好き」という発言や水素エンジン/ハイブリッド(WEC)に関しては、“夢”や“ロマン”がある熱いコメントを数多く聞いています。
そんなこともあり、個人的には「BEVに対するパッションが足りないよね」と思うところも。そこで筆者は発表会の質疑応答の席で、思い切って聞いてみることにしました。
「今回、さまざまな発表に驚いていますが、ひとつ気になるのは少々“ビジネスライク”な感がしてしまうことです。ズバリ、豊田社長はBEVが好きですか? それとも嫌いですか?」
すると、豊田社長は苦笑いをしながらこのように答えてくれました。
「あえていうなら『今までのトヨタのBEVには興味が無かったが、これからトヨタが創るBEVには興味がある』です。
ちなみに私が最初に乗ったEVは『RAV4 EV』でした。その次に乗ったのが、『86』をEVに仕立てたテストカーでした。
ただ、そのときのコメントは『電気自動車だね』でした。つまり、BEVにすると皆同じクルマになってしまう。
トヨタ/レクサス/GRという各ブランドで『○○らしさ』を追求している者としては『BEVだとコモディディ化してしまう』と。
そのため、今までビジネス的には応援するけど、モリゾウとしては……という本音を見抜かれた感じです。
私は今、マスタードライバーをやっています。マスタードライバーになるキッカケ、トレーニング、技能習熟はFRでやってきました。
しかし、最近は自ら出場するラリーやS耐などのモータースポーツの場では4WDに乗っています。
そこでマスタードライバーの感性が変わってきたことは、『電気モーターの効率はエンジンよりも遥かに高い』ということです。
それを活かすと四駆のプラットフォームをひとつ作れば、制御如何でFFにもFRにもできます。
そんな制御を持ってすれば、モリゾウでもどんなサーキット、どんなラリーコースでも安全に速く走れる事ができるぞ……と。
さらに全日本ラリー選手権ではノリさん(勝田範彦選手)、S耐ではルーキーレーシングのドライバーが活躍していますが、プロのドライバーの運転技能を織り込んで、より安全、よりFun to Driveなクルマができると言う期待値、そして私のようなジェントルマンドライバーが同じように走れるクルマが、このプラットフォームによって作れる可能性が出てきた……これが大きな変革です。
ただ、制御で味付けしただけでは伸びたうどんに天ぷらを載せるような感じにしかなりません。
この数十年、TNGAをはじめ、ベース骨格、足回り、ボディ剛性など、『もっといいクルマをつくろうよ』という掛け声のもとで、地道なカイゼンをおこなってきました。
そして、下山コースを作り上げ、クルマにより厳しい条件での開発も進んでいます。
つまり、単なるビジネスマターではなく、ドライバー・モリゾウとして、『こんなクルマがあったらいいな』というクルマづくりに期待しています。
我々はBEVだけでなくFCEV、HEV、そして何より内燃機関も本気でやっています。
そこはモリゾウとしても豊田章男としても変化はありません。そして、お客さまに選んでもらい笑顔になってほしい。
そのために作り手が心を込めた物を提供していく。そのような思いで、全方位でやっていきます」
※ ※ ※
これを聞いて筆者はトヨタがBEVではなくクルマをつくろうとしていると感じました。
さらに2021年11月のスーパー耐久最終戦(岡山)で豊田社長にインタビューをした際に、「たぶん、僕は一番のトヨタのクレーマーだと思う(笑)」といっていたことを思い出しました。
それはマスタードライバーとして「最後のフィルター」であることを意味していますが、それを今回の話に置き換えると、豊田社長も納得のBEVに仕上がっているということです。
つまり、トヨタにとって本当の意味での「選択肢」が生まれたといっていいでしょう。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。




























































